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プライミング実験

●次の四つの言葉をつなげてひとつの文章にせよ。

<第一問>
・歩き続けるのは
・引っ張って
・とても疲れる
・重い荷物を

<第二問>
・気づいた
・父の頭が
・いつのまにか
・白髪だらけになっていることに

<第三問>
・見上げてみたら
・どんよりと
・空を
・曇っていた

このよう問題が10問出されていた。生徒たちは「何だ簡単じゃないか、楽勝楽勝!」とスラスラと解いていく。

●テストは終了した。出題者の意図はここからなのだ。生徒が正解するか不正解なのかは問題ではない。廊下をどのように歩いていくかが知りたいのだ。
「重い」「辛い」「白髪だらけ」「どんよりと」「曇っている」などのネガティブキーワードを読まされた生徒たちは、教室を出て廊下を歩く姿はどのようであり、何秒かかって廊下を歩き終わるかを調べる。

●もうひとつ、別のグループにはポジティブなキーワードだけで作った問題を出題する。
そちらには、「明るい」「オレンジの」「ふさふさとした」「快晴の」「楽しみ」などの言葉がちりばめられているのだ。

●その結果、ネガティブグループの生徒たちは皆、老人のように歩き、ポジティブグループは颯爽と歩いていったというのが「プライミング実験」といわれるものである。ジョン・バージという心理学者が考案した試験らしく、私はマルコム・グラッドウェルの『第1感』でそれを知った。

●「本当にそんな極端なことが起こるのだろうか?」という疑問もある。だが、同時に「さもありなん」とも思う。

何かの文章を読んだあとや、誰かの話を聞いたあと、老人のような気持ちになったり、若者のような気持ちになったりすることが誰にでもあると思うからだ。

●たとえば、A 株式会社の経営計画はどうにも重い。重量が重いのではなく、内容が重いのだ。しばしば出てくる熟語を拾い集めてみたら、こんな具合だった。
・・・
危機感、疑念、不安、低下、減少、心配、不可能、縮小、撤退、不振、不透明、低迷、限界、赤字、倒産、未達成、過去、クレーム、深刻、
・・・

● B株式会社の経営計画はすがすがしい。こんな言葉がたびたび登場するからだ。
・・・
希望、挑戦、達成、期待、上昇、展望、可能、楽しみ、成長、拡大、参入、突破、黒字、利益、未来、ニーズ、開発、発明、躍進、投入、
・・・

●書き言葉だけでなく、話し言葉も重要だ。結婚式にも忌み言葉があり、祝福用の言葉が存在する。
ビジネスにもビジネスを加速する言葉と減速する言葉があるはずだ。
社員がもし、辛気くさい言葉づかいをしていたら直してあげよう。周囲を明るくする言葉づかいに変えさせるのだ。

●話し始めるときに、いつもパターン化された表現で話し始める人がいる。

○どうも気になるのですが、・・・
○私が心配なのはですね、・・・
○うがった見方をすればですね・・・

このあとに出てくる言葉は愉快とは思えないし、心して聞こうとも思わない。だが次のような表現なら聞き耳を立てるだろう。

○なるほどすごい。さらにお聞きしたいのですが、・・・
○完璧です。ひとつだけ私の考えが及ばない点があるのですが、それは・・・
○素晴らしいですね。もし、こんなことを言う人が出たらどうなんでしょう。たとえば・・・

●「プライミング実験」
知っておいて損はない。
いや、知っておけばお得だろう。