●今日は那覇空港に向かう空の上で書いている。
名古屋を出発するときは今にも雨が降りそうな曇天だったが、飛行機が離陸して30分もしたら雲の上。水平線ならぬ雲平線から上は、文字通り雲ひとつない青空。
さて今日はどんな原稿を書こうか迷いながら機内に入ったが、この紺碧のブルーを見てすぐに書くべきことが思い浮かんだ。
キーワードは「青」だ。
●この年末、ある会合に参加したとき主催者が最後にこんな挨拶をされた。
「アジアもヨーロッパもアメリカも不穏な情勢の中、来年の経営環境がどのようになるのかまったく予断を許しません。しかし、私ども経営者は何があってもセイランノココロザシを忘れず、それぞれの分野で精進を重ねていきたいものです」
●「武沢さん、”セイランのココロザシ”ってなんでしょう?」と隣にいた知人 W が小声で聞く。
「さあ」と私。
念のために iPhone で検索してみたがなにもヒットしないので、おそらく、「青雲の志」のことではなかろうか。
●「青雲の志」とは、高く晴れ渡った青い空のように、スケールの大きな夢をもってことに望みましょうという意味である。
この機内からみえるあの青空のように!
●語源は中国古典・王勃著『滕王閣序』にある「窮しては且に益堅ならんとして、青雲の志を落とさず』で、その意味は「貧乏していてもその志はますます高く、高位高官を得たいという志を失わないようにしたいものである」というもの。
●私より10歳ほど年下の W は冗談めかしてこう言った。
「武沢さん、さすがに私もそろそろ50歳という年になると、”青雲の志”という言葉が少々気恥ずかしい。青臭く感じますよね。もう若くはないのですから青い雲ではなくて、黒い雲か茶色の雲でしょう」と笑う。
●私はその場でたしなめた。
「W君、そんなことを私の前でよく言えるな。人間、60歳でも70歳でも100歳でも”青雲の志”は大切なんだよ」と私。
「若い人には負けてはおられない、ということですね」
「違う。若い人は若い人の役目があるし、年齢を重ねた者でないとできないこともたくさんある。張り合うのではなく、役割がシフトしていくわけだが、どの役割を担うにしても”青雲の志”が必要だということだよ」
「なるほど。年寄りになるのも悪くはないということですね」
「たしかにそうだが、単なる年寄りではダメだ。一目置かれる年寄りにならねばならん」
●W 君は腕組みしながらウ~ンとうなってこう聞いた。
「一目置かれる年寄りになるための条件をあげろと言われれば何でしょうかね?」
「おもしろい質問だね。答えは幾つかありそうだが、あえてひとつだけ外せないものをあげるならば、現役であることだろう。何かの分野で現役プレイヤーでなければならない」
「生涯現役というやつですね」
「現役を引退してコーチやコンサルになるのも結構だが、その仕事で“青雲の志”を欠いた瞬間、現役ではなくなるから注意が必要だ」
「なるほど、年寄りにも青雲の志が大切だってことですね!」
「そう、セイランじゃないぞ」
●沖縄に向けての着陸態勢に入った。
飛行機から見おろすと、空だけでなく海も青いぞと訴えているようだ。