●フランスのホテルで働いていたAさん(38歳男性)がある日、上司にこう告げられた。
「あなたは再来月の3月から5月まで休みを取るように」
Aさんは耳を疑った。ついにリストラか、と思った。
だが上司は説明してくれた。
「あなたは残業時間の合計が350時間をこえている。 この超過勤務分を全て休暇として消化しなくてはならないのだ」
働き過ぎだから休めと言うわけだ。
●ところ変われば常識も変わる。
「大会社だけでなく日本の中小企業も一ヶ月ぐらいの長期休暇制度を導入すべき」と語るのは、総合保険代理店を経営するW社長。
同社の場合、20数名の正社員が交代で一ヶ月休む。当然、社長や役員も一ヶ月休む。原則として希望した通りに休暇が取れるのだが、幹部だけはある程度期間が決められている。販売が落ち込む月に休暇を取るようになっているわけだ。
しかし、代行者の手腕しだいでは販売があまり落ち込まないときもある。そうして、次の幹部候補者が見つかるという副次効果も狙えるという。
実際にW社長にお会いし、聞いてみた。
●「現場が混乱しないか?」
この制度を導入したのは2000年ですから11年前。最初のころは多少の混乱というか、動揺のようなものが社内にあったが、それはどちらかというと”好ましい動揺”だった。免疫ができてくると混乱も動揺もなくなった。
●「実際、一ヶ月も何をする?」
一番多いのは家族を伴って海外旅行を楽しんだり国内の温泉でのんびりしたりする「バカンス派」だ。だが、それも毎年だと飽きてきたり費用もかかるので、親戚の会社を手伝っておこづかいを得る「ちゃっかり派」も出だす。
最近増えてきたのは新しい知識や技術を学ぶために学校に通ったり、短期語学留学するなどの「自己啓発派」。
それにNPOに所属して何らかのボランティア活動を行う「奉仕派」も増えている。
●「休暇中の過ごし方は完全に自由か?」
もちろん、どこでどのような時間の使い方をしようが会社としては一切干渉しない。社員もそれぞれ工夫するので、最初は下手くそだった休暇の過ごし方が年々うまくなる。
●「新入社員も休むのか?」
社歴に応じて休暇の日数が決まっている。
一年目の社員は5日間
二年目は10日間
三年目は20日間
四年目以上は31日間となっている。
ただし、赤字決算を出した翌期にはこの特別休暇制度が凍結されることになっている。
幸いこの10年で一度も赤字を出していないが、新オフィスに移転した翌年にかなり危ないときがあった。だが、社員が総力をあげて乗り切ってくれた。
●「社長が一ヶ月もいなくて、本当に大丈夫?」
その一ヶ月は資金の不安がないようにしておくことと、会社対会社の契約行為の凍結だけをお願いしておけば何も問題はない。
最初のうちは用もないのに会社に顔を出したり、電話やメールを入れたりしたが、社員が迷惑そうな顔をするので一切の連絡を断つようにしている。
●「社員の反応はどうか?」
とても歓迎されている。休暇中は一切仕事のことを忘れてリフレッシュしてもらうためには、仕事を計画的に効率よく片づけていかねばならない。その結果、日々の仕事にまでよい影響がでていると思う。
あと、国の助成金制度もあるので、専門家と相談してそれらもうまく活用していくと良い。
●なるほど、来年は私もやってみようか?
社員も社長も一ヶ月休む。検討に値する制度ではあるまいか。