先週末は鶴岡の N 社を訪問し経営幹部会議に参加した。徹底した顧客志向と、管理力の高さから業績好調の N 社。会議でも今期に関することよりは中長期戦略に関する話題が大半を占めた。N 社の60余年の歴史のなかで、大胆な意志決定が何度も行われてきた。工場用地の買収や最新鋭マシン導入のために多額の投資を行ってきた。それ以上に極めつけの意思決定は、たくさんあった顧客を1社だけに絞ったこと。その会社と心中するつもりで決断されたという。それが「吉」と出た。N 社長の熟慮と果断が今日の N 社を作ってきた。
ただ東北全体に言えることだが、N 社では最近求人難が続いている。
震災復興に人材が取られているのも大きな理由だが、東北各地の企業誘致・学校誘致が盛んで、そちらで雇用がかなり旺盛なのだ。とくに鶴岡では大型誘致が複数決まったことで求人難に拍車をかけた。一昨年まではどの学生を採用しようか迷っていたが、いまでは応募があるだけでありがたいと思える状況だそうだ。
東北地域全体の概要(東北電力ホームページ)
→ http://www.tohoku-epco.co.jp/seven/data/gaiyou_shigen.html
N 社に限らず東北には Y 社や T 社など知人の会社すべてが個性的である。中央に対する反骨精神がそうさせているのか、個性的な会社が多い。4年前、青森で何人かの経営者と居酒屋に行った。そのとき、横に座られた社長が糸で綴じた本を見せてくれた。「がんばれ!社長」を読んでいる社長の友人だという。よくみると、それは本ではなくノートだった。万年筆で手書き文字がびっちり書かれている。ところどころ細い文字で数字も入っている。社長いわく、「うちの経営計画書です」。新書サイズの大きさで20~30ページものだったと記憶している。
「え、これが経営計画書ですか!」と私が驚くと、その社長はもっとビックリすることを言った。「うちは10人弱の小さい工務店ですので、全員分一冊ずつ私が手書きして渡しています」
印刷かと思えるほど丁寧で読みやすい文字だった。10冊を清書するのに2週間かかるそうだ。その社長は、さらに私を驚かせた。
「内容は道徳教育で習うようなことしか書いていません。だから毎年あまりかわりばえがしないので、古参の社員はほとんど覚えています」
「道徳教育?」
「そうです。当社では『二宮翁夜話』を教育読本にして皆で毎週輪読しています。それをベースにした経営計画書ですから大半が道徳的なことばかりになります」
篤農家で勤勉な人、思想家でもあるという程度の知識しかない私は「へぇ、すごいですね」としか言えなかったが、「昨年版のものでもよいので一冊分けていただけませんか」と言うべきだったことを悔いている。「道徳的なことがビジネスでしっかり通用するのですよ」と社長が言われたがそこから先は酒宴のこと。話題が別のことに変わっていった。
今回、山形の N 社に向かう道中で読んだ本のなかに、偶然ながら、二宮尊徳について書かれた箇所があった。それを読んでいたく感銘を受けた。こんなすごい人だったのか、と。そして手書きの経営計画書の一件を思いだし、無性にその経営計画書を読んでみたくなった。もしその方か、お知り合いの方がこの記事をお読みなのであれば是非ご連絡いただきたい。
私が感銘を受けた二宮尊徳の箇所はあすご紹介する予定。
<明日につづく>