未分類

多作家、北斎とピカソ

●昨日、スピルバーグの『スーパーエイト』をみてきた。

『ジョーズ』以来、パニック映画を作らせたらスピルバーグが第一人者だろう。ただしこの映画、ストーリー的にはよくわからないところもあり、家内は「70点」と辛い評価を下した。
私は、日曜日の午後がハラハラ・ドキドキできればそれで充分なので「100点」をつけた。

特にトレーラーの転覆場面は必見の大迫力。それに、恋人役の女性の”演技力”(特にゾンビを演じるところ)は脳裏に焼きついてはなれない。見どころいっぱいのこの話題作、あなたはどうご覧になるだろう。

★『スーパーエイト』 → http://www.super8-movie.jp/

●夕食時にこの映画の話をしたところ、大学生の息子が「へぇ、スーパーエイトか。お父さんもあたらしいもの好きだね」と言った。

「おいおい」と私は異論をとなえた。

「息子よ、たかが新作映画を一本みたぐらいで、あたらしいもの好きの”称号”を与えるのは早すぎる。本当のあたらしいもの好きとは、もっと行動的でアグレッシブでなければならない。しかも、好奇心の対象が自分の仕事とも直結している必要がある。お父さんの場合は、あたらしいもの好きというより、映画好き、趣味好きとでもいうべき程度だ」

予期せぬオヤジのうんちく話を聞きながしながらトンカツをほおばる息子。

●私の中であたらしいもの好きの代表といえば葛飾北斎である。

アメリカの雑誌『ライフ』でかつて「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」で、日本人としてただ一人ランクインしたのが北斎である。

●北斎は生涯にわたって改号すること30回。つまり30回もペンネームを変えている。

「春朗」「群馬亭」「北斎」「宗理」「可侯」「辰斎」「辰政(ときまさ)」「百琳」「画狂人」「雷斗」「戴斗」「不染居」「錦袋舎」「為一」「画狂人」「九々蜃」「雷辰」「画狂老人」「天狗堂熱鉄」「鏡裏庵梅年」「月痴老人」「卍」「是和斎」「三浦屋八右衛門」「百姓八右衛門」「土持仁三郎」「魚仏」「穿山甲」などと、それらの組み合わせである。

研究家によれば、おもな号は「春朗」「宗理」「北斎」「戴斗」「為一」「卍」の六つに過ぎず、あとは副次的な号だとしているが、それでも充分に多い。

●改号のたびに画人として新境地を切り拓こうとした北斎は、自らの住まいもたびたび変えて気分一新をはかった。

生涯において転居する回数なんと93回。

出戻りの娘・お栄との共同生活で二人とも絵にのみ没頭したため、家の中が大いに荒れ、引っ越しせざるを得なかったためとも言われている。理由のいかんを問わず93回はすごい。

いまの私では、これから毎年2回引っ越ししたとしても北斎の記録にはとどかない。

●居酒屋のとなりに住んだときは、朝昼晩の三食とも出前だった北斎一家。
客人がきてもお茶を出さない。娘のお栄もださない。どうしても必要なときは隣の家の小僧にたのんで茶をだした。

天候の話や時節の話題をながながと会話するのも嫌った。金銭にも無頓着で、画工料は相場の二倍受け取っていた北斎だが、ずっと貧しかった。画工料の包みをひらきもせず、机に放置した。支払いがあるときは、包みごとほうり投げて全部渡してしまった。

●そこまでして作品づくりにこだわった北斎は、生涯で三万点を超える作品を残している。申し分のない多作家といえよう。

一般人からみれば、かなりの奇人でもあった北斎。
西洋の芸術家で奇人といえばピカソだろう。では、ピカソはどの程度の多作家だったのか。

<あすにつづく>