●「トウショウボーイ」と「テンポイント」が皐月賞で一騎打ちしたのは1976年。あれ以来35年間、私はつかず離れず競馬をみてきた。
ビッグレースのなかでも「クラシック」といわれる三歳馬のレースや、世界の名馬が日本に集う「ジャパンカップ」、年度代表馬の選考に大きな影響をあたえる「有馬記念」などは格別な思いでみる。
馬券は買わないのだが、一応、予想めいたことをすることもある。
●そんな私が北海道に行くと、服巻(はらまき)さんとお会いするのが楽しみのひとつ。
氏は獣医であり、ペット病院を経営しながらサラブレッドの生産牧場専門のコンサルタントもされている。日本で唯一の強い馬を作るコンサルタントなのである。
●どうしたら強い馬を作れるのか。
サラブレッドの場合はなんといっても血統が一番重要らしい。父母の血の配合であり、さらにはおじいさんやおばあさんの血、さらには曾おじいさんや曾おばあさんなどの血を読んで配合していく。それは血の芸術ともいえる。
●強い競走馬には、競馬界も敬意を表して称号をあたえる。
「最強の戦士:シンザン」
「怪物:ハイセイコー」
「天馬:トウショウボーイ」
「貴公子:テンポイント」
「皇帝:シンボリルドルフ」
「英雄:ディープインパクト」
「芦毛の怪物:オグリキャップ」
「最速の競争馬:サイレンススズカ」
などなど。
こうした歴戦の勇士たちの戦いぶりと血の系譜は人間の歴史ロマンに勝るとも劣らない。ひとたび馬の話が始まると、もうだれにも止められないのが競馬ファンというもの。
●先週も札幌で服巻さんとご一緒した。
「先日のオルフェーブル、強かったですねぇ」と私。
「まさしく!まさか皐月賞とダービーの連覇とはねえ。父・ステイゴールドの血ですね」と服巻さん。
その後、服巻さんによってステイゴールドに関するエピソードが15分くらい語られた。要約するとこうなる。
・・・
今年の三歳馬でいまのところ最強馬となった「オルフェーブル」の父はステイゴールド。さらにその父は、アメリカの殿堂入り馬:サンデーサイレンスで、母はゴールデンサッシュ。母の父はフランスの名馬ディクタス。
ステイゴールドはデビュー時から大いに期待されたのだがいつも二着にしかなれない馬だった。相手がどんなに強くて、どんなに弱くてもいつも二着。ついについたあだ名が「シルバー(銀メダル)コレクター」。「ゴールドの前でステイ(足踏み)するからステイゴールド」などと皮肉られた。
ステイゴールドの才能は余人ではうかがい知れないところがあり、相手なりにあわせて走る。最初から自分は2着でいいんだ、とでも思っているかのように走る。
当時、最強といわれた馬「サイレンススズカ」は、相手に影さえ踏ませない圧倒的な勝ちっぷりで「最速の競走馬」といわれていた。
その「サイレンススズカ」と勝負し、1~2馬身差まで追い詰めたのはステイゴールドだけだった。
気分をかえるために騎手を武豊(たけ ゆたか)に替えた目黒記念(G2)でようやく重賞を勝った。その時の武のコメントがふるっている。
「(ステイゴールドのファンの皆さん)、おめでとうございます!」
長年ステイゴールドを応援してきたファンは、みな胸があつくなった。
武ならではの勝利者インタビューといえる。
それからしばらくして、なんとドバイへの遠征が決まった。
ドバイシーマクラシック(G2)に出場することになったのだが、その時の本命馬は欧州年度代表馬で当時、世界最強といわれた「ファンタスティックライト」である。
その世界最強馬をステイゴールドは、なんとゴール板直前に鼻差で差しきって見事勝利を勝ち取った。悠悠の日本凱旋であった。
そして、いよいよ引退を決意し、ラストランとなったのは香港でのレースだった。
「ヴァース(G1)」への挑戦である。ステイゴールドにとってのラストランは初のG1への挑戦でもあったのだ。
単勝で1番人気に支持されたステイゴールドは、スタート直後から後方6番手に控え、冷静にレースした。そして最後の直線に入ると素早く馬群を割って2番手に上がってきた。
しかし、逃げるEkraar(エクラール)が5馬身のリードを保ったまま先頭をひた走る。
そのときなんと、ステイゴールドは内へヨレてしまい、エクラールとの差が縮められない。
ついにG1の夢はやぶれ、最後の最後まで2着か。
誰もがそう思った直線の最後で、鞍上・武豊が「背中に羽が生えた」と言わしめるほどの鬼脚を発揮し、ゴール直前でエクラールを交わした。
みごと、ラストランでのGI初勝利を果たし有終の美を飾ったのである。
その時つけられたG1馬に贈られる中国語の敬称が『黄金旅程』。
「ゴールの前でステイする万年二着馬」が、ラストランの勝利によって『黄金旅程』の冠を勝ち取ったのだ。
負けっぱなしでは血は変わらない。がんばって勝っておくことで血筋は一変する。
彼の息子が先日、皐月賞と日本ダービーを連覇した「オルフェーブル」である。もう彼らには二着は似合わない。
・・・
●「しびれますねぇ、服巻さん。ジーンとくる親子じゃないですか。そんな話を服巻さんのメルマガで書いてくださいよ」
「いやいや、こんな話題はファンや関係者には常識ですよ」
「だったらファン以外の人に向かって書いて下さいよ」
「わかりました。書いてみます」
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