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続・殿堂入りスタッフ

●「家では仕事の話をしない」
我家には暗黙のうちにそんなルールがあるが、スタッフの森本さんの話題はよく出る。それが最近、「このままだとあの子辞めちゃうよ」とか「仕事辞めたい!って叫んでたよ」と家内に言われるようになったのは今年からである。

●私はそれを真剣に取りあわなかった。

「彼女にかぎって辞めるわけがない」と信頼しきっていた。もし何かあれば私に直言してくれるはず。オフィスで叫ぶのはストレス発散。
それに今元気がないのは、体調が悪いから。すぐに元気な彼女にもどるよ、そう楽観していた。

●だが・・・。

5月11日(水)、夕方6時を回ったころだった。

仕事を終えて帰宅準備をしはじめた彼女。この日も体調が悪そうで、私とは必要最低限の会話しかしていない。そういえば今日は一度も彼女の顔をみていないかもしれない。

●帰宅準備をおえて、私のデスクにやってきた。

普段のトーンより2オクターブほど低い声で、「社長、今日はこれで帰ります」と言った。
「お、了解。おつかれ様!」
「あと、社長、これ」
と封筒を差し出した。

いつものように何かの資料か、出張関係の持ち物を用意してくれたのだと思って「サンキュ」と手を伸ばそうとしたら、封筒の表に「退職願い」と書いてあった。

●自分の目を疑った。身体が固まってしまって手も伸びない。

決して見てはいけないものを見てしまった気分で、そ~っと彼女の顔を見上げてみた。
深々とマスクをしていて表情がよく見えなかったが、真剣なまなざしで、”私はもう決めましたから”と訴えていた。

何を言われようが揺るがない決心を感じた。

●「森本さんが辞めたいそうだ」
奥にいた家内にそういうと、家内も「え?」と絶句した。

・いったいなぜ?
・どうすればよかったの?
・今後どうするの?

いっぱい質問をした。結局一時間ほど3人で話し合ったが覆水盆に返らずだった。

●もうこれが限界だという。公私のけじめをきっちりつけて、個人生活も大切にしたい。
仕事をためこまず、スッキリさせて家に帰り、土日で完全にリフレッシュしてまた月曜日から真剣かつ楽しく仕事にがんばれる。

それが良くてこの会社でがんばってきたのに、徐々に仕事が増えていって仕事がオーバフローするようになっていった。土日も仕事のことが気になっている自分に気づき、体調にも異変がきた。これは私が望んでいる姿ではないと思った。

●そこまで追い詰めてしまっていたとはつゆ知らず、ジョークで空気をなごませるぐらいのことしかしてこなかった。

仕事のミーティングは毎週してきたし、業務の打合せは綿密だったが、彼女が仕事に対していだいている気持ちについては話題にしたことがなかった。

●かつて私は「金の草鞋を履いて探す人」というコラムを書いたことがある。

<自己規律>をもったを20の条件を兼ね備えた人材はまさしく貴重であると書いたが、その20の条件は彼女をモデルにしたものだった。

http://www.e-comon.co.jp/magazine_show.php?magid=3309

●ショックを抱えながら友人にメールした。

彼はすぐに電話をくれたが、まだ彼女が目の前にいたので何も話せなかった。
翌日、東京へ行った。都内でセミナーを開催したあと友人たちと酒を飲んだ。

●「森本を失う」

私がそう話すと、「大丈夫ですよ武沢さん、また別の人材に出会えるチャンスだと思えばいいんだ」という声が半分あった。

だが、普段、彼女と直接メールのやりとりをしていて、「がんばれ社長!」は彼女の力で運営されているのを知っている人は別の反応をした。

●その場にいたZさんは、「もし100人 “いいね!” が集まれば、彼女も考え直してくれるかもしれない」とその場でFacebookページを立ち上げてくれた。

・・・「がんばれ社長の森本さん、辞めないで!」・・・

というFacebookページである。今も残っている。

「武沢さん、明日のメルマガでこのFacebookページを告知して100人のいいね!を集めようよ!」と激励してくれた。

すごく嬉しかったが、メルマガで告知することは彼女を追いつめるし、ふさわしいことではないと思った。だが、その気持ちがすごくありがたかった。結局、その場にいた人を中心に15人の「いいね!」が集まった。

●また、その場にいたXさんは、翌朝一番で花束を彼女に贈ってくれた。「花を見て少しでも気が変わってくれれば」ということだった。

「無理でしょうが、メールでお食事に誘って話を聞いてみます」という人もいた。

「とにかく武沢さん、あなたが辞表を受け入れてしまったら彼女は戻らないんだから」と励まされた。

私はもう充分だった。

●5月31日19時30分、彼女はオフィスから去った。

その数日前、森本は広告主や広告代理店など、いままでお世話になった方々に退職のあいさつメールを出した。すると、一斉に返信が返ってきたらしい。

驚き、励まし、感謝のメールだった。私の手元にも何通か届いた。
今朝も届いている。

・・・

先日貴社森本様から退職のメールをいただいていて几帳面な方だなあと感嘆しておりました。

実際、広告でお付き合いさせていただきましたが窓口として実に誠実正確な対応をしていただきました。

今日の貴メルマガをみてやはり人財だったんだなあと感じ入りました。

次のステップでの彼女のご健闘をお祈りします。

森本さん、殿堂入りおめでとう!

(有)マエダ販促 前田克己

・・・

●もちろん彼女は「殿堂入り」スタッフとなった。

次にどんな分野に進むかは未定だそうだが、大いに健闘を祈りたい。

「いつまでもあると思うな親と金」

「いつまでもいると思うなその人材」

企業は人材を必要とする。しかもその人材は複数、いや大量に必要とする。特定個人への依存度を高めすぎると経営基盤は安定しない。