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儲かってまっか?

●「儲かってまっか?」「ぼちぼちでんな」

これが大阪商人のあいさつだと聞くが、まだ一度もライブで聞いたことがない。今なら「儲かってまっか?」と聞いても「あんさん、だめでんがな」と言われるかもしれない。

●「商人には好況不況はない。いずれにしても儲けねばならぬ」

そう語った松下幸之助氏。戦前に氏が発表した「商売戦術三十カ条」の締めの一文である。
昭和11年(1936)年1月に創刊したPR誌『松下電器連盟店経営資料』の巻頭で松下は、創業以来、折々に店員に話していた商売に関する考え方を文章にして発表した。それが「商売戦術三十カ条」である。

●松下電器連盟店制度は、その前年の昭和10年(1935)年11月に実施された。
しかしこの当時、電器業界の競争環境は激烈をきわめていた。松下か、東芝か、日立か。それとも他のメーカーか。
そうした系列の競争だけでなく、メーカー、問屋、小売り、それぞれが共存共栄できるなどとは思ってもいない時代。どこが主導権を奪うかという競争でもあり、上下左右が千々に乱れ混迷をきわめていた。

●そこで松下は、「お互いに信頼の精神を持って、仕事の能率を高め、経営の確立を期し、わが電器業界をして経営の模範郷たらしめようと考えて、連盟店制度を創設した」のだった。(『PHP Business Review』より)

●あれから75年経つ。さすがに文章表現だけは時代がかっているが、「商売戦術三十カ条」の内容は今なお私たちにビジネスの原点を伝授してくれるものである。

それと同時に松下さんが、大変細やかな心配りができる人であったことを容易にうかがい知れる内容でもある。

以下、三十条すべてをご紹介する。あなたはどの条文に「いいね!」を押すだろう。

第一条   商売は世の為人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり。

第二条   お客様をじろじろ見るべからず。うるさくつきまとうべからず。

第三条   店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何。

第四条   棚立上手は商売下手。小さい店でゴタゴタしている方却って良い場合あり。

第五条   取引先は皆親類にせよ。之に同情をもって貰うか店の興廃の岐るるところ。

第六条   売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永久の客を作る。

第七条   お客様の小言は神の声と思って何事も喜んで受け入れよ。

第八条   資金の少なきを憂うる勿れ。信用の足らざるを憂うべし。

第九条   仕入は簡単にせよ。安心して出来る簡単な仕入は繁昌の因と知るべし。

第十条   百円のお客様よりは一円のお客様が店を繁昌させる基と知るべし。

第十一条  無理に売るな。客の好むものも売るな。客の為になるものを売れ。

第十二条  資金の回転を多くせよ。百円の資本も十回廻せば千円となる。

第十三条  品物の取り換えや返品に来られた場合は、売った時よりも一層気持ちよく接せよ。

第十四条  お客の前で店員小僧をしかるくらいお客を追い払う妙手段はない。

第十五条  良き品を売ることは善なり。良き品を広告して多く売ることは更に善なり。

第十六条  自分の行う販売がなければ社会は運転しないという自信を持て。そしてそれだけに大いなる責任を感ぜよ。

第十七条  仕入先に親切にせよ。そして正当な要求は遠慮なく言え。

第十八条  紙一枚でも景品はお客を喜ばせるものだ。付けてあげるもののない時は笑顔を景品にせよ。

第十九条  店のために働くことが同時に店員のためになるよう、待遇その他、適当の方法を講ずべし。

第二十条  絶えず美しい陳列でお客の足を集めることも一案。

第二十一条 紙一枚でも無駄にすることはそれだけ商品の値段を高くする。

第二十二条 品切れは店の不注意、お詫びして後「早速取寄せてお届けします」とお客の住所を伺うべきである。

第二十三条 正札を守れ!値引きは気持ちを悪くするくらいが落ちだ。

第二十四条 子供は福の神-子供連のお客、子供が使いに来ての買物には特に注意せよ。

第二十五条 常に考えよ、今日の損益を。今日の損益を明らかにしないでは寝に就かぬ習慣にせよ。

第二十六条 「あの店の品だから」と信用し、誇りにされるようになれ。

第二十七条 御用聞きは何か一~二の品物なり、商品の広告ビラなり持って歩け。

第二十八条 店先を賑やかにせよ、元気よく立ち働け、活気ある店に客集まる。

第二十九条 毎日の新聞の広告は一通り目を通しておけ。注文されて知らぬようでは商人の恥と知るべし。

第三十条  商人には好況不況はない、何れにしても儲けねばならぬ。

●この年から40年後(昭和51年)、日本経済は長びく不況に直面していた。そこで幸之助は「不況克服の心得十ヵ条」を作り、発表した。

それについては明日にゆずる。

<つづく>