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モティベーション、なにそれ?

社長、どうされたんですか。最近メッチャ朝が早いですし、社長の情熱がこちらに伝わってくるようです。部長にそういわれて社長はうれしそうにこう言った。「分かるかい。来年いい子が入社してくれることになってね、そのせいで最近モティベーションが上がってるのさ」

私はそのやりとりを聞いていて社長に小声で苦情を申しあげた。

念願の大手広告代理店に入社した戸部郁乃(とべいくの、仮名、23歳)はメディア営業部に正式配属が決まった。歓迎パーティでチームの先輩であり、部門のトップセールス女性(25)に戸部はあいさつに行った。

「先輩、入社二年で200人中トップだそうですね。素晴らしいです」
「そうかしら」
「はい、凄すぎます。営業って思っていたより大変ですもの。今後ともよろしくご指導をお願いします」
「大変って、何が?」
「覚えるべきことがたくさんありますし、一番むずかしいのはモティベーションの維持です。先輩はどのようにモティベーションを維持されてるのですか?」
「モティベーション?」
「はい、モティベーションの管理がむずかしくて・・・」
「モティベーション?、なにそれ?」
「え、・・・・・」
「私にあるのは仕事だけよ」

先輩はこう言った。

モティベーションというもっともらしい言葉をつかって何かができない言い訳にしようとしないで。私たちの目の前にあるのは、やるべき仕事と超えるべきハードルだけ。ほかに何もないわ。そんな奇妙な言葉、私のチーム内では絶対使わないでちょうだい」

「モティベーション、なにそれ?」、名言だと思う。

仮に、負けたチームの四番バッターが「今日ぼくが4三振した理由?朝からどうもモティベーションが上がらなくてね・・・」と言ったらファンはどう思うか。がっかりの上塗りだろう。

仮に、ステージで歌詞の間違いを連発しファンの失笑を買った演歌歌手がステージを降りるとき「最近モティベーションが低下気味なんだ」と言い訳したらファンはまたライブに来るだろうか。

風邪をひこうが胃潰瘍にかかろうが、身内が救急車で運ばれようが、舞台に立った以上はいつものパフォーマンスを魅せるのがプロ。プロはモティベーションを口にできない職業なのである。

経営者が社員に「モティベーションを上げろ」というのも矛盾した話。社員もプロだからだ。目標を達成するために仕事を果たし、なし遂げた成果の分け前を報酬として受け取るプロなのである。

当然社長も自分自身のモティベーションを口にすることはできない。冒頭の社長のように社員に「最近情熱的ですね」と言われているようではまだプロと言えるメンタリティができていない証拠である。

モティベーション、なにそれ?