●4年前に社長に就任したK社長(32歳)が訪ねてきた。
そういえば、Kさんの社長就任パーティに出席し、お祝いを述べたことが昨日のことのように思い出される。
そのパーティの翌年にリーマンショックがあり、彼の会社も大打撃を受けていると聞いてはいたが・・。
●久しぶりの再会だったが、Kさんに覇気が感じられない。
髪がすこし乱れ、顔色も冴えない。近況を聞いてみたら案の定、悪いらしい。寝ても覚めても心配ごとを抱えている人特有の表情である。
●「まず、心の使い方を変えたらどう?」と申しあげた。
社長は誰よりも会社のことを考えるべき立場の人だが、クヨクヨ心配してはならない。考えることと心配することは別である。
中村天風さんの言葉を借りれば、「何があっても心にまで迷惑をかけてはならない」のである。心からすべてが発するわけだから。
●自動車部品を製造するK社はこの二年、業績が大きく落ち込んだ。
長年、主力銀行だったA信用金庫から融資を断られるようになってしまった。あれだけ信頼しあい、太いパイプがあった銀行なのにとショックだった。最近になってあわてて他行との取引を開始したが資金調達がうまくいっていない。
●社長の給料を大幅に減らし、経費を切り詰めてしのいでいるが、昨年仕事が3割減り、今年に入ってさらに3割減った。二年で半減したことになる。
●派遣労働者をゼロにし、一部の社員を在宅勤務に、出勤社員もワークシェアするなど、人件費を半減してしのいでいるが出血が止まりきっていない。
●「武沢先生、なにかアドバイスを」と言うので、私は即答した。
「そんなこと私に分かるはずがない。あなたの心にある答えをいよいよ実行すべき時だろう」と答えるにとどめた。
寝ても覚めても会社のことを考えている社長なのだから、「なにをすべきか」という問いの答えは自分で持っている。それを粛々と実行すれば良いのである。
●普通の社長なら抵抗を感じてやらないことを、やれるようになるべきだ。
一番抵抗があるのは社員の解雇をともなう人件費の削減。それが必要ならば迷わず断行すべし。次に、資産を手放すこと。たとえば、支店や営業所、店舗、工場などを閉鎖・撤退することである。
名将は敗戦処理がうまい。リストラや撤退が思いきってやれる社長が名社長である。
●メンツもかなぐり捨てねばならない。
ホテルはシティホテルからビジネスホテルに、Kさんほどの若者なら、カプセルホテルでもサウナでもよいはずだ。
飛行機はビジネスクラスからエコノミーに、新幹線はグリーン車から自由車に、クレジットカードを使った交際費はゼロにしてカードは持ち歩かない。所属している団体組織からも退会しよう。仮払い残をゼロにし、役員の出張日当もゼロにする。
得たものはすべて手放すことができるのだからそうしよう。
●無駄な仕事や遊びはやめる。朝晩の生活習慣も劇的に変えよう。テレビやDVDはしばらく半減。浮いた時間すべてを経営と運動と読書に充てよう。
まず朝一番の貴重な時間を目標設定にあてよう。毎日1~2時間割いて攻めるための作戦を練るのだ。
経営を再興させるための経営ルネサンス計画をつくりたい。その内容に沿って、新製品や新事業への挑戦、新しい客先開拓のための作戦遂行していくのだ。
●きもちよい汗をかいてストレスを発散しよう。シャワーを浴びてサラダを摂ろう。
そんなスタートをきれば、昼前には元気溌剌。午後からは実行あるのみ。夜はまっすぐ家に帰って自己を解放し、明日への英気を養う。
こうして、生活に前向きなリズムを取り戻せば、一週間以内に空気が変わる。流れがガラッと変わってくるはずだ。
●それを続ければ、業績がすぐに底打ちし、上昇に転じるだろう。
うまくいけば、初年度からV字回復し、二年度には過去最高業績だって狙えるに違いない。
中小企業の魅力は社長が目ざめればすぐに会社が変わることである。
「背中を押していただいた気分です。さっそく実行します」とKさんは帰っていかれた。次にどんな連絡をくれるのか楽しみである。
個人も会社もルネサンスしよう。