●そういえば、以前はあれだけ通った近所の定食屋に最近は全然行っていない。
それに代わって、反対方向にあるそば屋には足しげく通っている。一体、きっかけは何だったのかははっきり覚えていないが、何となくそのようになっている。
●最近行っていないといえば、あの中華料理店もあのパスタ屋も、あのホルモン焼屋もあの居酒屋も、特に深い意味はないまま遠ざかっている。
外食の機会は減っていないので、かつてのなじみの店も新しい店に取って代わられているというわけだ。我ながら気まぐれなものである。
●そんな中、昨夜友人と行った鉄板焼屋には今月すでに二度目の訪問になるし、先月も三回は通った。
そのきっかけは昨年秋、オーナー(女性)がオフィスに表敬訪問してくれたからである。
●ある日、オフィスで仕事をしていたら、彼女から電話が入った。
「最近お忙しそうですね、今からお持ちしたいものがあるので、ほんの数分だけおじゃましたいのですがよろしいですか?」と言う。
「へぇ珍しい」とお待ちしていたら、菓子折持参で「またお寄り下さいね。来週末まで○○キャンペーンをやっていて、飛騨牛のA5ランクのお肉を通常の半額でご提供していますから。新鮮な鎌倉野菜も入荷していますし」ということだった。
あいにくそのキャンペーン中には行けなかったが、一ヶ月以内に友人を連れてそのお店に行った。
●半年で一度も行っていなかったお店に、その日以来10回は通ったわけで、オーナーの表敬訪問は効果てきめんだ。
「社長の表敬訪問は、セールスマンの訪問の百回に勝る」(一倉定)と言われるが、まさしくその通り。
郵便受へのポスティング千枚にも勝ると私は思う。
●工具店を経営するA社長も表敬訪問は欠かせないという。
前もってアポイントを入れておくと、先方も社長や役員が応対してくれる。
地元の名店で買った菓子や酒を持参し、同時に自社の経営計画の骨子も持参する。
こちらが積極的に情報開示すると、客先も今後の見通しなどの情報を聞かせてくれる。また、今まで気づいていなかったニーズや隠れたクレーム、サービス不足などが発覚することもあるという。
●さらにA社長の表敬訪問にはもうひとつ重要な役割がある。
それは、同業他社の同行。他社がどのような営業法で、どんな頻度の営業攻勢をかけているか。あるいは、同業他社の社長も表敬訪問しているかどうかをそれとなく聞き出す。それによって、競争力の優位性がどの程度なのかをはかる。
●昨年までは客先も社長が応対してくれていたのに、今年は部長だったりすると間違いなく危険信号。もう一度猛アタックをかけねばならないという貴重な情報が客先の対応から得られるわけだ。
重要顧客に対してはトップ同士の情報戦が鍵をにぎる。決して表敬訪問をおろそかにすべきではない。