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理想の上司

●理想の上司像が毎年発表される。
産業能率大学がこの春、新入社員を対象に調査した「理想の上司像」ランキングはこうなっった。

男性            女性

第1位 イチロー        真矢みき
第2位 原 辰徳        篠原涼子
第3位 所ジョージ       天海祐希、仲間由紀恵
第4位 古田敦也        天海祐希、仲間由紀恵
第5位 高田純次        ヒラリー・クリントン
第6位 阿部 寛        久本雅美
第7位 野村克也        江角マキコ、菅野美穂
第8位 バラク・オバマ、堤真一 江角マキコ、菅野美穂
第9位 バラク・オバマ、堤真一 深津絵里、和田アキ子
第10位 タモリ         深津絵里、和田アキ子

近年、ランキング入りの常連だった北野武、明石家さんま、星野仙一の各氏は人気を落とした格好だ。

●この調査が2009年3月25日から半月間ということで、ちょうどWBC決勝(日韓戦)の翌日からの調査という点が多分に影響していると思う。
しかし、その後の原ジャイアンツの好調ぶりやイチロー選手の活躍をみるにつけ、この一位・二位は現時点でかなり妥当なものと言えるだろう。

●さて、このランキングを見て思うことは、大半がスポーツ選手とバラエティタレントである点だ。やはりテレビの影響が非常に強い。
また、日本の政治家や経営者から誰もランク入りしていないのが残念だ。アメリカの政治家が二人も入っているわけだから、可能性がないわけではない。日本の若手政治家にますます活躍してもらいたい。

●また、記憶があいまいだが以前のこうしたランキングには松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫など、経済界の著名人がランク入りしていたように思う。
今、経済界を代表して若者からあこがれとなる経営者って誰だろうと思い起こすと、少々さみしい感じがする。
最近、テレビでもの申す経営者が減っていると考えるべきなのか、それともブログでそれが代用されるようになったので、影響力が分散したと考えるべきか。どちらにしろ、もっと社長が尊敬されてほしい。

●理想の上司として誰を選ぶか、あなたも新入社員になったつもりで考えてみてほしい。結構悩むはずだ。

私も、故人や歴史上の人物の中に沢山の名前を思い出せるが、現存する人物から上司をひとり選ぶのは困難を感ずる。というより、上司は要らない。欲しいのは相談相手だ。「理想の相談相手はだれ?」と考えるといろんな人の名前が思い浮かぶだろう。酒席に格好の話題となるはずだ。

●夏休みのある日のこと。
社会人になったばかりの長男とテレビで高校野球を見ていたら、ある高校の監督が連続四球を出すピッチャーに激怒し、「なにやってるんだ~!」と怒鳴りながらベンチを帽子で叩いていた。

それが映った瞬間、「恐そうな監督やな。星野さんみたいや」と私が言うと、息子はこう言った。

「あ、ムリムリ。あんな人がもし野球部の監督だったらオレさっさと部活辞める」

●私はその監督のことや野球の試合のことよりも、息子の発言が気になった。「そんな言い方ないだろう。監督だって自分のワガママで怒ってるんじゃないし」と苦言を言いたくなった。
だが、滅多に息子と一緒にテレビを見ることがないので、その時はだまっていることにした。だが本来なら、テレビを消してこう言うべきだったかもしれない。

●「長男よ、君の言うことも分からぬでもない。怒ってばかりじゃ誰もついていかないだろう。だが、なぜ監督が怒るのかを想像してほしい。ここにいる高校生にとって野球はお遊びじゃないんだ。青春の三年間を賭けてきた真剣勝負のスポーツなんだよ。そんなヤツらだけがこの甲子園に来ている。だからチームの監督としては、何があっても彼らに勝たせてあげたい。だからこそ真剣になって怒るんだ。怒られた選手だって監督の気持ちを分かっている。
“お前は普段どおりの力を出せばきっと相手を抑えることができる”って励まされていることを。
そうした、真剣にやっている人間同士しか分からない魂のぶつかりあいがこの甲子園にはあるんだよ」

●そう教えてあげるべきだった。かつて、遠藤周作は言った。

「今の若い世代にもっとも欠けているのは『屈辱感に耐える』訓練である。この訓練が行われないで、そのまま社会から大人あつかいされると、おのれのすること、なすことはすべて正しいと思うようになる」

●”屈辱感に耐える”という意味で学生スポーツほどそれにふさわしい訓練はあるまい。スポーツのほとんどが屈辱だから。
そうした経験者だけが投票する「理想の上司ランキング」は、あるいは違った結果になるのかもしれない。