●あなたは普段、いつのことを考えているだろうか?
・今日明日とか、今週、今月のこと(短期)
・来月以降、一年以内のこと(中期)
・来年以降のこと(長期)
たぶん「短期」のことを考える人が一番多いとは思うが、「短期」ばかりだと経営者はやってゆけなくなる。
短期、中期、長期をほど良くバランスをとって考えるのが経営者の役目なのだ。
●短期脳ばかり使っている人はいつしか、先々のことを考えるのが面倒くさくなったり、未来のことなど非現実的に思えてきたりする。
その反対に、ずっと先の未来のこと、たとえば5年後のこと、10年後のこと、それよりもずっと先のことしか考えていない経営者もいる。それはそれで地に足がついた現実的なことが考えられなくなる危険性もある。
●経営者にとって大切なことは短期、中期、長期のどれもが、必要によって考えることができるようにしておくことだ。
そういえば10年以上前、私はある講演会で大変苦々しい失敗をした。
●ある地方銀行主催の勉強会に招かれて、ホテルの会議室で若手経営のための経営講座を受けもった。
私の任務は半日を費やして自社の経営理念と経営方針を確立するというもの。
●「本当に半日で経営理念と経営方針が作れますか?」と銀行の担当者は私に何度も念を押した。
私は、「大丈夫です。余裕で大丈夫ですよ」と自信満々だった。
●だがこの日、講義を進めても反応がふだんと違っていた。
会場に集まった30才前後の若手経営者(厳密にはまだ経営者ではない)のほとんどが作業の時間になっても手が動いていない。
私はいつも通りに教えていた。
「8ページにある他社事例をみて、9ページの書式にあなたの考えを書き出してみてください。では今からその作業に5分間差し上げます、どうぞ!」とやっても、多くの人が腕組みしたり天井を見上げたりしているだけで手が動いていない。
●受講者がペンをすらすらと走らせる光景に慣れていた私は当惑した。
そして10分たっても誰もペンを動かそうとしないのに業を煮やし、私は逆ギレした。
「あなたがたは今何を考えてるのですか?なぜ作業をやらないのですか?この時間もあなたの部下は現場で汗水流して働いてくれてるのでしょう。クーラーが効いた部屋で天井見あげて腕組みして給料もらってていいのですか?これはあなたが今やるべき仕事です!」
私のその声すらもむなしく虚空に消えた。一部の人は私の逆ギレに愛想を尽かし、帰って行ってしまった。
●その日集まった若手経営者は、ふだん短期脳ばかりを使って仕事をしていたのだと思う。それが悪いというのではなく、それがそのときにおける彼らの役割だった。
●私は、中小企業家同友会などの経営者団体で経営理念の講座を担当しており、すべて成功させてきたと自負していた。
だが同友会などの講座に通ってくる人にとっては、すでに短期が今年と来年であり、中期とは3年~5年後であり、長期とはそれ以上先のことである。
今月来月の問題を解決するためにやってきているのではない。
ところがこの日の相手は今日・明日・今月が最大関心事。私はそのことに気づいていなかったのだ。
●経営理念や方針を決めるということは、普段仕事で使っている脳とは別のところを使う。頭から湯気が立ち上がりオーバーヒートを起こす人もいる。
だが、経営者の頭脳はそうした思考回路も開発していかねば役割を全うすることができないのも現実。
だから、長期脳と抽象脳を開発してくれるような本を読み、そうしたセミナーに参加し、ブログやメルマガを読むのが良いと思う。
●「短期と中期と長期、抽象と具象、なんでも来い」と言えるようになっていこう。