★テーマ別★

初めての発表会をあえて京都御所の近くで

6月5日(金)京都は雨。予定していた納涼川床は中止となり、店内でコース料理をいただくことになった。少しでも鴨川の流れを感じていただこうという主人の配慮だろうか、窓が開いていて入りこむ外気が冷たい。この時期、まだ必需品ともいえる備えつけの毛布を各自の膝にかけて食事をいただいた。寒がりの女性はそれを肩からもかぶっていた。とても美味しい懐石料理だったが、その味よりも外気の冷たさの印象が強烈だったかもしれない。

その日の午後、N 社にとって初めての経営計画発表会が京都で開催された。場所は京都御所のすぐ近くである。主は名古屋の IT 企業で社長も社員も若い。平均年齢は30歳ほどだろうか。9名の社員の誰ひとり「経営計画発表」を経験したことがなく、すべてが見よう見まねの手作り発表会だった。

まず T 社長(28)がビジョンと理念、それに今期の数字計画を発表した。前年にくらべ大幅に業績が向上する見通しであるという。そして現状の個人商店的な経営体質から脱皮し、 慢性的な残業体質にもメスを入れて、良い意味でシステマチックに運営される法人組織を作ると宣言した。また、経営計画書づくりと同時進行ですすめられた「新・就業規則」も正式に発表された。

私は激励講演した。

『目標を達成する仕事観と仕事術』というテーマを T 社長からいただいていたので、60分かけて武沢特製「仕事術マニュアル」を配付し解説した。その後、社員ひとりひとりが個人目標を発表した。最後に一番社歴が長い O さん(女性)が社員総代として決意表明を述べた。

このように午後2時から始まった経営計画発表会は午後5時きっちりに閉会し、すみやかにホテルへ移動。全員がチェックインを済ませてからタクシーを乗り合わせて納涼川床へ向かった。先斗町(ぽんとちょう)に入って8軒目の店だった。

懇親会のあとは祇園まで足を伸ばし、雨の花見小路を歩いた。濡れた小路も風情があって良い気分になれた。京都が初めてという若者がいたので「じゃあ連れてってあげよう」と壱銭食堂(いっせんしょくどう)に案内し、壱銭洋食と生ビールで一日を締めることにした。会計を済ませて外へ出ると、幸運なことに舞妓さんが歩いているのに遭遇した。「初めて見ました」と興奮気味の彼。なにもかもが初めてのようだ。

次の日はバスで京都を半日旅行した。これも N 社にとって初の社員旅行である。午前9時半にホテル前を出発したバスは一路、高尾(たかお)をめざした。昨夜の雨がまだ残っているようでかろうじて傘が要らない程度の小糠雨がとまらない。

高尾には神護寺(じんごじ)がある。遣唐使の一員として唐から帰国した空海が京都で最初にひらいた修行道場である。山の中腹にあり、石段を登って山門にたどりつくまでには相当登らねばならない。熱心な信者さんか我々のような好事家がやってくる程度で一般的な観光客はそれほど多くない。だから風情があり歴史の重みを実感できる。付近の小川では一昨日からゲンジボタルが光り始めたそうだ。

神護寺に参ったあとは花園で竹籠弁当の昼食。オプションで湯豆腐を付けた。そのころから空は晴れわたり真夏のような青空が頭上に出現。これでセミの鳴き声がきこえたら完全に夏休みのような気分になった。食後は太秦(うずまさ)の東映・映画村で自由行動。とはいっても少人数なのでほとんどが団体行動のようになっていた。

午後3時半、ホテル前で一堂解散。私はすぐに京都駅に向かった。「二日間、ありがとうございました。おかげさまで初めてのこうした会が無事に行えました」と T 社長。これで来年からは彼ら自身の力で発表会や社員旅行を企画できるようになるだろう。