●韓国が竹島での軍事演習の映像を国内初公開した。それを見て国内のナショナリズムが一気に高まっているようだ。
サッカーのサポーターのようなノリで韓国の若者たちが「もし戦闘になれば、領土を守るために自分たちも戦う」とテレビでやっていた。
同じことをされたら日本人もそうするだろう。
それにしてもアッという間に国家間の関係が良くもなったり悪くもなったりする。報道(特に映像)を流す側の責任は重い。
●日本政府も黙っていてはいけない。子どもの教科書に記載してあるほどの事実なら、強く竹島の領有権を主張しなければならない。
だが、あくまで大人としての対応を貫くべきで、自国のナショナリズムに訴えかけるようなことは避けるべきだろう。
それに韓国やアメリカに領土権を主張するだけでなく、まずは私たち日本人に、もっときちんと説明してほしい。
●・・・戦争映画のように扱われてしまうと、日本国内に戦争賛美の風潮が広がるおそれがある・・・
として作者が映画化を拒んできた『坂の上の雲』(司馬遼太郎)がいよいよNHKスペシャルドラマとなって来秋からテレビ放映される。
あの膨大な小説をどう映像で料理するのか楽しみだ。
●司馬遼太郎作品の映像化といえば、
・今でも世界のどんな舞台でも通用できる人
・人の偉さは計りにくいが、その尺度を「英知と良心と勇気」という事にするならば、江戸時代を通じて一番偉かった人
その人こそ高田屋嘉兵衛であると司馬。しかも、「2番目が思いつかないくらい偉い人」とまで激賞する嘉兵衛を描いた司馬の作品が『菜の花の沖』だ。
●私が時々お世話になっている淡路島の断食道場は、高田屋嘉兵衛の生家のすぐ近くにあり、没後180年たった今でも嘉兵衛は郷土の偉大なヒーローなのだ。
●作者の司馬さんが亡くなったあと、NHKが『菜の花の沖』を映像化した。
竹中直人、鶴田真由、竜雷太 など私の好きな役者が多数登場したが、原作を読んだ者から言わせると、見るに堪えられない作品だった。
amazonに寄せられたこちらの評価とほぼ同じ気分を味わったものだ。
→ http://www.amazon.co.jp/dp/B00005V4FW/
余談ながら映像化の失敗は宮部みゆきの「模倣犯」(映画は中居正広主演)でも味わっており、ファンとしては茫然とするしかない。おそらく作者はもっと忸怩たる思いで映像を見たことだろう。
●さて期待のドラマ『坂の上の雲』は2009年秋から丸2年、全13回の放送になる。
クライマックスが日露戦争、特にバルチック艦隊撃破というこの上ない国威高揚の場面。なにしろ、アジア人が初めて欧米人に戦争で勝った瞬間なのだから。この勝利はアジア全体を鼓舞したという。
●だがこの作品は戦争物語ではない。むしろ牧歌的な青春小説、と言ったら言い過ぎだろうか。
江戸時代という長い長い封建の世からようやく目覚めたばかりの新興国日本が、素直に欧米的近代国家をめざす。ついこの間までの攘夷運動など忘れてしまったかのように。
幕末の討幕運動で伊予松山は徳川方に与した。当然、薩摩や長州、土佐や佐賀の若者がどんどん出世していくのを指をくわえてながめるしかない。
●コネが使えないのなら、個人の学問でしか立身出世の道はないと伊予松山の若者が学問を志すうちに数奇な運命で秋山兄弟はそれぞれ陸軍と海軍の大幹部になる。
彼らの幼なじみの正岡子規や高浜虚子、夏目漱石などは文学の世界を志していく。
後半の日露戦争の場面では東郷平八郎や乃木希典、児玉源太郎、大山巌といった海軍閥・薩摩の大物も檜舞台に登場する。
●「新しい時代に自分はどう生きるべきか・・・」
人生のテーマを見つけ、国家のために尽くせる人間になる道を模索する明治初期の若者たち。
国家の興隆と個人の立身出世が伸びやかにリンクしていた時代の青春群像劇が『坂の上の雲』である。
放映までにまだ一年以上あるが、どのような映像作品に仕上がるのか注目している。
詳細 → http://www.nhk.or.jp/matsuyama/sakanoue/arasuzi.html
●映像化といえば、昨日号で村上春樹氏のことを書いたその日に、彼の出世作「ノルウェイの森」の映画化が発表された。なんとも奇遇だ。
http://news.gyao.jp/article/detail/3152114
「僕は字にしてみないとものがうまく考えられない人間」と語る村上春樹氏の場合、映像でその思いがどう伝えられるのか、こちらもあわせて注目している。
※昨日号の続きは来週にします。