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日本でも戻らない遺失物

「あ、メガネがない」

出張を終えて自宅にもどった A 社長は、帰りの飛行機のなかに忘れてきたことに気づいた。ANA に問い合わせたところ、すぐに「見つかりました」と連絡が入った。そして翌日にはていねいに梱包されたメガネが手元に戻ってきた。しかも「着払いで」と言ったのに、元払いで届いた。それ以来、A 社長は ANA の ファンである。

海外出張が多い A 社長は、外国では遺失物が戻りにくいことを知っている。ある国のレストランでメガネを忘れた。 食事のあとレジで支払いを済ませ、外に出たときにメガネのことを思いだした。あわてて店内に戻ったが、そのメガネは出てこなかった。だから、飛行機に忘れたメガネがきちんと自宅まで届けられることのありがたみがよく分かる。

その A 社長が先週、東京都内の列車内にカバンを置き忘れた。中にノートパソコン、手帳、鍵、名刺が入っていた。A 社長はすぐに駅の遺失物届けで書類を書いた。内心は不安だったが「ここは日本だから」という安心感も少しあった。しかし翌日になってもカバンが出てこない。「交番にも届けた方が良いですよ」と駅員に言われ、交番でも手続きをした。

その日の夕刻、警察から「カバンが見つかった」と連絡が入った。だが、中には鍵と名刺しか入っておらず、ノートパソコンと手帳はなくなっていた。「日本でもこんなことが起きるのだ」と A 社長はおどろいた。幸い、日ごろからセキュリティ意識が高かったので、パソコンは指紋認証のロックをかけていた。それに、個人情報・機密情報などは一切パソコンに入れていなかった。念のために、Dropboxや Evernote など クラウドにあげているデータはすべて消去し、IDとパスも一新した。鍵のコピーを作られた可能性もあるので、自宅とオフィスの鍵を新しいものに変えた。

今回、 A 社長は 列車で居眠りしていて降車駅に着いたのに気づかなかったという。あわてて降りたときに、二つ持っていたカバンのうちの一つを置き忘れた。誰しもありがちなことなので、「お気の毒でしたね」と私が言うと、「再発防止策はひとつしか思いつきません」と悔しそうな A 社長。それは、都内移動の列車では椅子に座らないこと、だという。なるほど、そうすれば居眠りしないはずだ。

メガネは戻ってきても、「個人情報は高く売れる」と多くの人が知っている。だから PC やスマホは戻らない可能性が高い。もし紛失すると、損害額は購入した費用だけにはとどまらないこともある。場合によっては、購入費の何十倍も何百倍にもなり得るし、失う時間や心理的ストレスも大きい。

出張や移動が多いモバイルワーカーは、機器を忘れないための対策と、万一紛失したときのための被害予防策を忘れずに。こうした問題は個人の心がけにとどまらず、会社をあげてルールを定め、周知徹底すべきテーマでもある。