理念と計画を社内発表したところ、「その理念って社長個人のものでしょ。だったらそれでいいんじゃないですか」と社員に冷たく言われ、がっくりきている社長がいた。
せっかく皆の気持ちを鼓舞しようと思って作ったのに・・・。
また別の会社では最近、ホテルの宴会場を使って「経営方針発表会」を賑々しく催した。
社員数は数名の小さな建設会社だが、銀行や勉強仲間、それに協力工事店の社長や職人なども招いたので、50名を超える会になり、大いに会は盛り上がった。
しかし、社員に対して行った「方針アンケート」の結果に社長は失望した。
数名の社員全員が会社の方針を「よく分からなかった」と回答したというのだ。
「皆、自分のことしか考えていないのだろうか?」と社長は頭を抱えている。
がっかりするのは早すぎる、と私は思う。いずれの社長も社員からのリアクションを気にしすぎ。過大な期待をかけているのだと思う。
そもそも、会社の理念やビジョンを聞いてすぐに興奮するような人はほとんどいない。もし、いたとするならば、その人こそ次の社長候補かもしれない。
手前味噌だが、
私が25才の時、初めて我が勤務先の中長期経営方針を岡崎グランドホテルで聞いて、血湧き肉躍ったのを覚えている。
「なんてすごいことだ!うちの会社はガンガンでかくなるし上場会社にもなるという。自分はその社員、うまくいけば経営陣にだってなれるかもしれない。何て幸せなんだろう。よし、オレはやるぞ!」と内心で燃えるものを感じていた。
20才の頃から株式投資を経験していたから、上場会社になるということの意味や困難さを知っていた。だから、一層、方針を聞いて燃えたのかもしれない。
転職するとき、「そんな水商売みたいな会社に入って」と何も知らない母は私に言った。
たしかにスキー用品やマリン用品を販売しているのだから”水商売”には違いないが、昭和50年代前半はまだまだ小売業に対してそんな空気を残していた。
その会社が上場すれば、自分の転職の確かさは証明できる、とも考えていたと思う。
だが、岡崎グランドホテルで私と同じ方針発表を聞いた多くの同僚たちは反応が違っていた。
「ふぅ、やっと堅苦しい会議が終わった」とか「なんだかゼロがたくさん並んでて、頭痛くなっちゃった」とか、「となりの○○君なんか、途中から居眠りしてやがったぜ」などの軽い会話が耳に飛び込んできた。
それは若者特有の斜に構えた発言なのかも知れないが、方針を聞いた幹部が誰に対してなぜ斜に構える必要があろうか。
いずれにしても、私のような熱い感想を持つ人間は少数なのだと思い、自分の感想を披露するのをやめた。
何人かに一人はきっといる。社長の方針を聞いて沸々とたぎるものを感じてくれる社員が。
そうした人を発見し、幹部に登用していこう。もし本当に一人もいなければ、そうした人を探そう。一定の割合で必ずいる。年令や経験、性別はまったく関係ない。
方針やビジョンを聞いてもピンと来ない人、無関心をよそおったり、本当に無関心な人に対しては、もっと踏み込んでいって目的と夢を共有できるようになっていきたい。
いわゆる「ベクトル合わせ」の方法だが、明日に続く。