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助言不能

経営者は「すべての結果責任が自分にある」という最終覚悟ができている。だが、サラリーマンの一部には、「自分は悪くないが、周囲は悪い」という意識をもった人がいる。
それが事実であろうがなかろうが、そう思っている人の相談に乗ることはできない。なぜなら、彼が欲する結論と私が申し上げたい結論とは相容れない場合が多いからだ。

だから私はサラリーマンの仕事相談に乗ることはしない。彼の起業相談や人生相談なら乗れなくもないが、仕事相談は助言不能なのだ。

しかし先週の土曜日、そのタブーを犯してしまった。

「30分だけでいい、土曜日でも日曜日でもいい」という彼の熱心さにほだされて一昨日の午後、30分という時間を彼に差し上げた。

案の定、お会いして10分後、彼に向かって「あなたは未熟だね、同世代より相当、感覚が遅れていますよ。このままではあなたは、社内でも社外でもたいした仕事ができそうもないですね」などと、失礼な言葉を連発してしまっていた。要するに私はキレてしまったのだ。

キレるくらいなら最初から会うべきじゃなかったのだ。

製造業の人事課長をつとめる35才男性の彼は、約束時間の15分も前にやってきた。遅刻してはなるまいということだろうが、来訪は5分前までにしてほしい。10分前だと早いと思う。15分前だとあきらかに早すぎる。この段階で私の中では「減点1」。

会話が始まった。緊張しているのが分かるが、何を私に訴え、何を質問したいのかが分からない。そもそも彼と彼の会社のことがよく理解できない状態のまま時間が過ぎていくのがストレスになる。

「それで質問の主旨は何ですか?」

と私は二回ほど聞き直した。主旨を短時間で理解させてくれないのでこれで「減点2」。

会社案内も文書もメモもなにも持参されていないので、こちらが質問しながら彼の仕事や会社の事などをメモしていかねばならない。

でもそれって、話が逆だろう。よって「減点3」、この段階でキレる用意が完全にできた。

彼は、「サラリーマンとして自分はどのようにして会社を導いていけばよいのか?」を聞きたいらしいが、以下、そのやりとり。

武沢:その責任感は結構なことだが、それであなたは何をしたいの?
A氏:はい、この事をやろうとしています
武沢:うん、なるほど、それでいいと思いますよ
A氏:ところが上司が協力的じゃないのです
武沢:どうして?
A氏:よく分かりませんが、協力してくれません
武沢:そうなんですか。それで?
A氏:ですから、それで自分はどうすべきかと思いまして・・・。
武沢:え?
(お互い沈黙1分)
武沢:「私はどうすべきか」って、そんなこと私は知りませんよ。

こんなやりとりが2~3回あったあと、彼に攻撃を開始した。

「あのね、あなたに差し上げた30分って、あなたのためになれば私も浮かばれるが、あなたのためにも私のためにもならない30分だったら、逆に代金を請求しますよ。居酒屋でのグチじゃないんだから、問わず語りにポツポツ話してない簡潔に話してほしい。できれば、目標とその障害、解決策を紙に書いてくるべきでしょ」

彼は謝りながらも言い訳した。

こういう時間をいただいているだけで私のためになっています。私は地方都市のサラリーマンとして平日は多忙だし、週末も家族サービスで時間がとられる。なかなか経営の勉強会や非凡会のような場に参加できないので、こうした時間をとっていただけるだけで、ものすごく勉強になっています。それに武沢さんのメルマガは日頃から貴重な情報源になっていて、先日も武沢さんが「Wish List」を作ってみろと書いておられたので、見よう見まねでやってみたら、10項目しか書けなかった。数の少なさにびっくりしたが、いつのまにか自分が丸く収まっていることを痛感したりしました。

私はさらに指摘した。

あなたの話は学生のようだ。話に迫力がないというか主体性が乏しく甘い。回りに依存しすぎていると思う。35才で家族を大切にするのは当たり前のこと。だからといって、勉強できないとか、Wish Listが作れないなどという言い訳をしていてもしようがないでしょ。
あなたと同世代のサラリーマンの多くは身銭を切って勉強している。
面白そうな講演や交流会があれば、深夜バスで移動してまで駆けつけて友人を作り、自分を高めている人も少なくない。その点、あなたは自分ができない理由を周囲にもとめているように感じる。
あなたの上司はあなたのそうした甘い姿勢を見抜いているから協力してくれないのではないですか。

少々言い過ぎたとは思う。だが、A氏に会う前夜の金曜日、私は都内でB氏に会っていた。

B氏はもうすぐ起業する。そのために、「がんばれ社長!」を読んで見よう見まねで「経営マニフェスト」をつくり、それを印刷したものを持参してプレゼンしてくれた。
だから私はプレゼンの途中で次々に意見や質問を発し、10枚の企画書の最後のページまで行ったとき、90分が経過していた。あっという間の実り多い時間を過ごした。
同じ「相談」とはおもえない。相談主によって時間の濃密さに極端な差が出る。

B氏のように主体的に生きてほしい。

「やってみたけどうまくいかないのはなぜですか?」
「私はどうすれば良いですか?」
などの質問は発した瞬間、負けだ。

「うまくいかない理由は○○だと思います。対策としてこの三案考え、私としてはその第二案から着手したいのですが、いかがでしょうか?」

と聞いて欲しい。そうした主体的な人に対しては「さぁ、助言するぞ」という気分になれる。