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レギオンの豚

聖書の「マルコの福音書」に次のような話が出てくる。

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「レギオン」という大勢の悪霊がイエスの前にひれ伏し、イエスに願ってこう言った。
「わたしどもをあの豚の中に送り込んで、その中に入って行くことができるようにして下さい」

イエスがそれを許したので、汚れた霊どもは出て行って豚の中に入った。すると豚の群は、崖から海へなだれをうって駆け下り、ほぼ二千匹の豚が海の中で溺れ死んだ。
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一目散に2000匹の豚が崖を下っていく姿って想像しただけですごい。

だが、一歩誤れば、それと同じことが企業や国家で起こりうる。
一人一人は賢明な常識人なのに、リーダーのミスリードによって、会社全体、国家全体が間違った方向に歩み始め、やがて制御がきかなくなって海に落ちるまで止まらないほど暴走してしまうことがある。

「耐震強度の偽装問題」、いわゆる姉歯ショックから早1年半。

姉歯という一人の設計士が行った耐震計算の偽装発覚から端を発したこの事件は、多数の被害者や倒産企業を生み出す社会問題に発展。
今なお幾つかの事件が係争中である。
この事件の当事者一人一人は、善良な常識人が少なくなかったはずなのになぜ。
一人一人の心に潜む「これくらいはいいだろう」「こうでもしなきゃ、やってられない」という悪霊のささやきが組織犯罪を生む。

その当時から「偽装」は建築業界だけの問題ではない、と指摘されていたが、案の定、牛肉コロッケでも偽装が見つかった。

ミートホープの田中社長は当初、マスコミに向かって「うちも赤字で・・・」とか「商売人として当然のコストダウンでしょ」などの苦しい言い訳をしていたが、最終責任者として「見苦しい」のひと言だった。

この偽装事件に関するブログでの評価を調べてみたら、一部で田中社長を擁護するような書き込みも見受けられるが、私は、「彼は万死に値する経営者だ」と思う。典型的なエゴイストだ。

「取引先や市場(お客)からの値下げ要求が厳しかった」ともいうが、お客を欺き、法を犯すことまで許されるような企業人の言い訳などなにひとつないはず。

社員を解雇し、会社を整理しはじめたが、その前に必要な贖罪を充分にすべきだろう。

コムスン事件やミートホープ事件などを受け、小倉キャスターが、「企業努力が行き過ぎると、悪知恵・ずる賢さになる」とコメントしていたが、それが一般的な考え方なのだろうか?

それは断じて違う、と言いたい。

企業努力はどこまで行っても悪知恵やずる賢さ、違法・脱法という点と交わらないものだ。永久に平行線をたどるものである。

一部の経営者だけが小倉キャスターの言う批判に当てはまってしまう。
その一部の経営者とは、理念不在の経営者。もしくは、理念があっても、その中に遵法精神が欠落している経営者である。

「私たちは法律を守ります。お客様にウソは言いません」などと常識的なことを改めて声高に主張する必要はないように思えるだろうが、それでも、企業が追い込まれたときは、いつだって2,000匹の豚の集団のようになりかねないのである。

経営理念、もしくは、行動指針や服務規程などに遵法精神を強く強く盛り込んでほしい。

あらために企業倫理などとムズカシイことばを使わなくても、人間として常識と思えることを会社でも全員で守る、それが企業倫理というものではなかろうか。

大会社だからそれが守れない、小企業だから守れない、という理屈は通らないものである。