コンピュータがチェスの世界チャンピオンをうち負かす。また、コンピュータによるプログラム売買で利益を上げる投資家グループもあるという。すでに様々な分野で人間の能力や判断力を上回る結果を出しているコンピュータ。だが、将棋の名人にはまだ勝てない。それはなぜか?取った駒が今度は味方になることで、選択肢がとてつもなく大きくなるからだと言われている。
きっと「経営」という分野でもコンピュータが、人間を打ち負かす時代はやってこないだろう。とりわけ世界ブランドの経営者たちの物語を知れば知るほど、経営は人間にしか出来ないと強く思えるのだ。作り手の個性あふれる主張が「モノ作り」「販売方針」に反映され、それが市場に受け入れられたとき、ブランドは高い付加価値をもたらす。
パトリツィオ・ベルテッリ(1951年生れ)をご存じだろうか?俳優ではない。イタリア人経営者だ。そう、あの「プラダ」の会長兼CEOだ。1913年にプラダを創業したマリオの孫の夫にあたるのがパトリツィオだ。彼が3代目オーナーとして経営権を握ってからプラダは俄によみがえった。
「市場の動向や消費者の好みに合わせた商品を送り出すのは敗者のやり方だ。」と彼は言う。
革製品が主流だった当時、パトリツィオ率いるプラダは女性用ナイロンバッグを発表。お葬式をイメージさせる黒のラインナップは、『創業者マリオへの侮辱』とも陰口をたたかれた。だが、これが女性の心を掴み、大ヒット。
他のブランドも次々とナイロンバッグを投入したがどれも成功していない。ブランドには、迎合や妥協はない。市場調査や競合調査をしたうえで意思決定することは悪くはない。しかし、その調査結果は、市場に迎合するためのものや、競合をまねるためのものではない。自社の主張を市場に浸透させるために様々な調査を行うのである。
ブランドとは何かについて後日あらためて考えてみたいが、私たち個人や中小企業もブランド化すべきだと思う。そのための第一歩が、経営理念や経営哲学を決めることだ。個人であれば、価値観を表明することである。
(参考:『20世紀名言集 大経営者篇』 情報センター出版局刊)