最近会社を興したばかりという経営者が、「武沢さん、最近何か面白い本ありませんか?」という。
そこで、私が「やっぱり『現代の経営』でしょ」と回答すると、彼は少々がっかりした顔をした。あまりに定番すぎて、彼にとっては新鮮味に欠ける回答だったのかもしれない。あるいは、過去に読んだことがあるのかもしれない。
だが、少なくとも一年に一回は必ず読む本を何冊か持っておくべきだと思うし、私にとって『現代の経営』は、そうした大切な一冊だ。
だから、この「がんばれ社長!」でも最もたくさん登場している本がこれだろう。
奇しくも私の生年である1954年に書かれたこの本は、半世紀を経た今なお、経営者向けの定番本である。
上・下巻の二冊あり、コンテンツは次のようになっている。経営者にとっては、この目次を読むだけでもインスピレーションがわいてくるものと思うので、あえて抜き書きしてみる。
【上巻】
《序論》マネジメントの本質
第一章:マネジメントの役割
第二章:マネジメントの仕事
第三章:マネジメントへの挑戦
《第一部》事業をマネジメントする
第四章:シアーズ物語
第五章:事業とは何か
第六章:われわれの事業は何か。何でなければならないか
第七章:事業の目標
第八章:明日の成果のための今日の意志決定
第九章:生産の原理
《第二部》経営管理者をマネジメントする
第十章:フォード物語
第十一章:目標と自己管理によるマネジメント
第十二章:経営管理者はマネジメントする
第十三章:組織の文化
第十四章:CEOと取締役会
第十五章:経営管理者の育成
【下巻】
《第三部》マネジメントの組織構造
第十六章:組織の構造を選ぶ
第十七章:組織の構造をつくる
第十八章:小企業、大企業、成長企業
《第四部》人と仕事のマネジメント
第十九章:IBM物語
第二十章:人を雇うこと
第二十一章:人事管理は破産したか
第二十二章:最高の仕事のための人間組織
第二十三章:最高の仕事への動機づけ
第二十四章:経済的次元の問題
第二十五章:現場管理者
第二十六章:専門職
《第五部》
第二十七章:経営管理者とその仕事
第二十八章:意志決定を行うこと
第二十九章:明日の経営管理者
《結論》マネジメントの責任
上・下巻併せて600ページほどの『現代の経営』。そのクライマックスともいえる最終章(第二十九章)でドラッカーはこう結んでいる。
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実に新しい課題は、明日の経営管理者に対し、哲学をもってあらゆる行動と意志決定を行い、知識や能力、技能だけではなく、ビジョンや勇気や責任や真摯さをもって人を導くことを要求する。
つまるところ、いかなる一般教養を有し、マネジメントについていかなる専門教育を受けていようとも、経営管理者にとって決定的に重要なものは、教育や技能ではない。それは真摯さである。
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別の箇所では、
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経営管理者であるということは、親であり、教師であるということに近い。そのような場合、仕事上の真摯さだけでは十分ではない。人間としての真摯さこそ決定的に重要である
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とも語り、「真摯さに欠けるものは経営管理者として不適格である」とも断定している。
ドラッカーはさらに、「真摯さを学ぶことはできない。もともと持ち合わせていなければならない」とも語っているが、そのくだりには少々補足が必要だろう。
もともと真摯さのかけらも持ち合わせていない人は論外だが、同じ人のなかでも、真摯さがあるときと、それを見失っているときがあると思うのだ。
そうした意味においては、真摯さを持っていない人がそれを新たに習得することはできないが、真摯さを持っている人が、それを忘れずに毎日を過ごすための方法は学習せねばならないと思うのだ。
真摯さとは、ひたむきさや一貫性のことである。
ムラッ気のある仕事ぶりや、右顧左眄(うこさべん)した経営ではなく、理念や方針を確立し、計画に則ってベストを尽くし続けるリーダーこそが真摯な経営者といえるのだ。
『現代の経営』 http://www.amazon.co.jp/dp/4478320780/