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談話室での会話二題

右目の視力は日に日に良くなり、0.3程度まで回復しました。高かった血圧も 135 ー 75まで下がり、血糖値も 90台で推移しています。このまま順調にいけば、明後日の水曜日には退院できそうです。

骨折している左手小指は曲がったままでキーボードの「S」「A」が打ちづらいですが、それほど支障はありません。ずっとベッドにいると身体がなまけますので、午後は談話室にパソコンを持ち込んで仕事をしています。いろんな人が近くのテーブルに座り、それぞれの会話をしています。私は仕事をするふりをしながらそれを聞いているのです。

病院「談話室」での会話二題。

1.入院患者(70代男性)とその妻

「どう?退屈してない」
「それが結構忙しくてさあ、のんびりなんてきないんだよ。今だって地下の売店で呼び出し放送を聞いてここへ戻ってきたんだよ」
「あらごめんなさい、お買い物中に。地下に売店があるの?」
「うん、ミニミニというコンビニなんだ。焼きたてパンがすごく美味しいんだよ」
「へえ。でもミニミニってマンションを紹介するとこじゃないの」
「それはミニスポットでしょ。あれ、ミニスポットはエアコンだったかい?」
「ミニミニでもミニスポットでもいいわ、とにかくそこのパンが美味しいのね」
「うん。パンはミニミニが一番だよ」

(「ミニストップ」ですよ、と言ってあげるべきだったか)

2.「教授回診を終えて」

『白い巨塔』で有名になった「○○教授の総回診」のようなことが私の入院先でもあります。教授が病室を見てまわるのでなく、患者が診察室に呼ばれるのですが、室内には貫禄充分な教授を中心に 10人以上の准教授、講師、研修医が取り囲んでいます。看護師長と数人の看護師もソワソワしています。担当の研修医が私の病状を説明し、教授が私に二つ三つの質問をしてそれでオシマイです。

私「儀式じゃないんだ。ふざけんな、と言いたいね」
息子「どうして?」

「患者よりも教授の方がエライみたいじゃないか。だれのおかげでこの病院は仕事がもらえてると思ってるんだ」
「お父さん、何を怒ってるの?」

「怒ってはいないさ。偉そうな態度をせず、腰の低い人間になれとアドバイスしてやりたいんだ。年だってお父さんとそんなに変わらんはずだよ、あの教授は」

すると23歳になる息子は意外なことを言いました。

「お父さん、僕ね、先月盲腸で入院したとき思ったんだ。お医者さんのおかげで僕の命が助かったんだって。腹が痛くて苦しくて血の気がひいて、死ぬかもしれないと思ったけど、手術の次の日には普通におかゆを食べてテレビをみている自分が不思議だった。自力じゃ助からないものをお医者さんのおかげで助けられたと思うと自然に感謝の言葉しかでなかったもの。お父さんはまだそのお医者さんに助けてもらったと思えていないから腹が立つんだろうね」

高い保険料や税金を払っているから救急車を呼ぶのは当たり前だし、救急医療も受けられるのは当たり前。入院治療費を払っているから、診療や看護のサービスを受けられるのは当たり前。「なにしろお金払ってるんだから」という気持ちがあると「相応のサービスを受けて当然」という考え方につながり、素直な感謝ができなくなるのだろうことを息子に教えられた。

まだ「感謝」がわかっていない。いつ、わかるのだろう。