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R社の下策

主力取引先をこちらから切る。しかも相手の社長には昔お世話になり、今でも尊敬している。だが、企業対企業の取り引きに私情は禁物だ。

東北への車中、携帯が鳴った。
「武沢さん、うれしい報告がある」と愛知県の「R」社からの電話だ。
今までずるずると後回しにしてきた経営の諸問題にR社長はこの一年、真正面から取り組んだ。しかも一気に。

・”尊敬している社長” という理由で、不良債権を抱えながらも受注をくり返してきた主力取引先と決別した
・その結果、安定売上げの1/4を失ったが、現金収支は大幅に改善され、新規客先開拓に取り組むようになった
・経営計画書を作り、理念と今年度活動計画とがリンクしていることを確認した
・自らの生活習慣を朝型に変更。読書と計画の時間を毎日設けることにした

「Rさん、すごいですね。おめでとう!それでどの程度の経常利益が出たのですか?」
と尋ねたところ、言いにくそうに

「まだ世間様に胸を張って公表できるような数字ではないが、500万円の経常利益が出ました」という。

R社は有限会社。とは言っても実質的にはRさん一人の個人会社だ。
個人の年収以外に500万円の利益が出ていることは評価に値する。しかも、二年前に初めてお目にかかったときには、たしか「3年以内に経常利益 300万円を目指す」と語っておられた。
「そんなの目標に入らない」と私がクレームを申し上げた覚えがある。

「武沢さん、不思議なものです。やろうとしながらも後回しにしてきたことを一つ二つ片づけたおかげで、一気にいろんなことが出来るようになりました。業績がよくなったおかげもあるが、自分の一存で出来ることがこれだけたくさんあるのかと驚いている。懸案だった夫婦沖縄旅行にも行ったし、パラオでスキューバーのライセンスを取得することも決めた」とRさん。

個人的な目標設定と会社の業績とが密接に関係しあっているのが中小企業だ。その相関関係を一枚の計画書に書き表したのが昨年夏。
あれから約一年、金額はまだまだ小さいとはいえ、Rさんの変化率は大きい。しかも彼には、「動いているものは動き続ける」という慣性の法則が働きだしているようだ。

個人企業、自営業の経営者に申し上げたい。

役員報酬1,200万(月額100万円)、法人利益1,200万円(月額100万円)をはじき出すことは遠い先の目標ではなく、短期目標にしなければならない。
この場合の短期とは、今期中または来期中を指す。
そのための勢いを創り出そう。

上杉謙信の言葉
「上策は敵も察知す。われ下策をとり、死地に入って敵の後巻(後援)を断たん」

作戦には「上策」と「下策」がある。普通は優れた作戦のことを上策と言うが、皆が考えるような常識的な作戦ばかりではうまくいかない時がある。そんな時は、あえて「下策」を考案しよう。

“主力取引先を切る” という「下策」がR社に勢いを呼び込んだのだ。