未分類

続・上海スピード

上海市内に炭火焼肉店『吉桜』を先週オープンさせたばかりの黄さんとの会話続く。

「黄さん、飲食の中でも焼肉に目を付けた理由は何ですか?」

「ハハハ、それは簡単なことです。特定の人に依存しないで済むからですよ。厨房に腕のよい料理人がいてはチェーン化できない。その点、焼肉や火鍋は素材が勝負であって、味付けはお客さんがやる。料理人の高給取りがいないおかげで、うちのお店で一番高い月給3,500元を稼いでいるのは肉切り専門の女性です。肉切りにも技術が必要で、下手にカットすると肉の風味が損なわれる。僕が見つけたこの中年女性がカットする肉は、とても軟らかくておいしいのですから」

投資回収は何年くらいで出来そうですか?

「何年?そんなに長くかけようとは思っていない。例外もあるが、上海の飲食ビジネスの多くは、投資回収に二年以上かかるようなプランでスタートすることはあまりない。ちなみにこのお店も10ヶ月程度で回収しようと思う」

詳しくは聞かなかったが、幾つかのヒントをもとに計算した『吉桜』の投資回収モデルはこうだ。

・初期投資(内装・空調・厨房など) 850万円
・月間営業利益            85万円
・投資回収期間            10ヶ月(年利回り120%)


一ヶ月売上げ 1日8.6万円(30席×3人×1.2回転×800円)
       一ヶ月 260万円
原価     25%として 65万円
粗利益    一ヶ月 195万円

一ヶ月経費 家賃 50万円(2フロア)、客席30
      人件費 30万円(40人)
      その他 30万円
      合計  110万円

営業利益    85万円

今後の出店戦略を聞いた。

「具体的な立地などはまだ決まっていませんが、しばらくはファンド形式で出店しようと思っている。出店が決定した都度、出資者を募り出資者に収益を分配していくのです。すでに池山さんを始め希望者の方がこの第一号店に何度も足を運んで、味やサービスをチェックしてくれています」

今後、改善すべき点はどこかあるだろうか?

「もちろん、直したいところだらけですよ。まず素っ気ないところ。従業員が素っ気ないのではなくて、外観や内装が普通すぎる。もっと東北地方とかモンゴルの香りが伝わってくるような物語のあるお店にしていきたい。そうしたデザインや絵や書を安価で提供してくれる日本の企業や個人がいたら是非紹介してほしい(笑)」

ここで黄さんは再開を約し、席をたった。
黙々と肉を食べながらこの会話を聞いていた馬さんが口を開いた。

「武沢社長、黄さんと私はほとんど同じ年令なのに、私は将来の夢を黄さんほどには具体的に語れない。それどころか、今まで何度も何度もチャンスを逃してきた。目の前で自国経済がこれだけ発展しているのを見ていながら、何もつかんでいない。意思決定をしなかったからだ。それがとても悔しいし恥ずかしい」

今度は池山さんが発言。

「馬さん、単純に人と自分を比べちゃだめですよ。あなたは黄さんが経験していない経験をしてきているし、知識も人脈もたくさんある。将来の夢が今語れなくったって何にも悪くない。語れるようになりたいのなら、今からそうなれば良いじゃない」

馬さんは、日本に留学したのち日本でフリーランサーとして放送・映像分野で活躍。いったん中国に帰国した後、数年間カナダにビジネスチャンスを求めた。帰国して俳優育成や日中をむすぶ芸能プロダクションなどをしているが、いずれもが不満足な成果らしい。

馬さん本人が締めてくれた。

「黄さんが素晴らしいのは狭いところに絞ってその一点に自分の未来を賭けたことだ。私も今までは絞るどころか広げることばかり考えてきたが、器用貧乏にならないためにも焦点を絞ろうと思う。武沢社長に刮目してもらえるようがんばります」

刮目してあい持す・・

知性派・魯粛が、豪傑・呂蒙を訪ねて議論した時、魯粛が呂蒙に言い負かされそうになった。魯粛はびっくりして、『私はあなたが武略一点ばりだと思っていたのだが、今では学識もすぐれてひろく、呉の町(蘇州)にいたころとは見違えた。』と告白した。

すると、それに答えるように呂蒙が言った名言がこれだ。
『士、別れて三日、すなわちさらに刮目してあい待す』