未分類

N社長の事件簿

「面接では、自社や自分の情けない所や弱みを隠さず伝えないとダメだね。良い所ばかり見せるとあとで失望させることになる」と語るはN社長(愛知県、51才)。

たしかにその通りで、たった一回の面接だけで望み通りの社員なのか否か、望み通りの会社・社長なのか否かを判断することなど出来っこない。だから試用期間がある、とは言うものの、試用期間を設けてあることでそれが有効に機能しているケースはまれだ。ほとんどは自動的に本採用になっていくケースが多い。ではどうしたら優秀な人を見極め、優秀でない人をふるい落とせるのだろうか?

先週もN社長のこんなミニ事件があった。

N社長の会社はまだ小規模だが、社長自身がインターネットサイトやメルマガ、blogで大活躍していて活動範囲は日本中だ。社長自ら本も出し、かなり売れている。その様子をずっとウォッチしていたという若いビジネスマンA君が、メールで「Nさんの元で働きたい。是非御社に就職させてほしい」と面接を申し入れてきたという。

Nさんの会社では社員募集をしていないので当惑した。だが、熱心な文面だし、頑張り屋さんなのがよく分かったのでとにかく本社で一時間ほど面接しましょう、ということになった。

25才というA君の第一印象は可もなく不可もない。とりたてて個性的でもないが、A君の話しぶりを聞いているとすごく芯がしっかりしている。学業も優秀だったみたいだし、N社長が若い頃よりも人生ビジョンをもっている。それに何よりも入社意欲が強烈に強い。
「Nさんのような人を探し求めていた」と言わんばかりで、面接というよりは、彼からの一方的な売りこみの時間だったという。

「できるものなら、たった一回の面接で社員の採用決定をしてはいけない」という「がんばれ社長!」で読んだ武沢の教えをN社長は破った。

面接がはじまって約一時間後、情にほだされる格好で、「よしA君、あなたは採用だ。いつから来られるの?」と尋ねていた。
A君は関東から単身で引っ越してくるというので10日後には大丈夫だという。「よし、5月の連休明けから仕事してもらおう。担当してもらう仕事は僕のほうで良く考えておくから」とN社長もすっかりその気になって再会を約束した。

ところが不幸なことにわずか4日後に入社辞退の申し入れを受けることになる。いや、4日後にこの「事件」が起きたことはお互いのために幸運だったのかも知れない。

面接から4日後、彼が引っ越し先をどこにするかを決めるため再び愛知県に来るという。N社長はその日、午前中は商談が入っていたが正午には終了予定のため、A君とは12時半からランチをとる約束をした。
どの下宿に引っ越すべきか、どのような条件で仕事をしてもらうか、などの詳細を煮詰める予定でもあった。

ところが、予定以上に前の商談が長引いた。A君の約束時間である12時半近くになったが、まだ終わりそうにない。A君の携帯電話番号は登録していないので、携帯をかけるためにはカバンの中の入っているA君の履歴書を見なければならない。とうとう12時半ちょうどになってしまった。A君から携帯がなった。だが出られない。

商談が終わったのは12時40分だった。駐車場に出てすぐにA君に電話した。「Nですが、申し訳ない。今名古屋駅の近くで商談が終わりました。あと15分ほどでそちらに到着できそうです」

すると、A君の様子が変だ。まるで別人のような低いトーンで、「あ、N社長ですか。遅れる?あ、そうですかぁ、お忙しそうですね。
何ならもう結構ですよ」と。

約束のレストランに到着したのが12時55分だった。

A君はレストランの店内ではなく、駐車場で待っていた。店内へ促すN社長に対してA君はそれを辞退し、「私からとても大切なお話しがありますが、この場所で結構です」と立ったまま何かを話そうとする。

A君から出た言葉はこんな内容だったという。

「小さな約束を守れない人に大きな仕事はできません。社長のお仕事から見て、私との約束など小さなものなのでしょうが、だからこそ誠意を見せていただきたかった。遅れるとわかった時点で連絡を下さるのが人としての最低限の常識ではないですか。このような人の元では残念ながら安心して仕事はできません。今回の採用のお話しはなかったことにして下さい。短い時間でしたがいろいろ勉強させていただきありがとうございました」

Nさんは何も言わなかったという。いや、あっけにとられて何も言えなかったのだろう。「サヨナラ」と言うのがやっとだった。

遅刻したことに弁解したい気持ちも少しはあった。A君のあまりに狭量な所などにも今後のために忠告してあげたかった。だが、自分で遅れておいて忠告するのも変だ。だが、それよりも何よりも、こちらだって、A君をそんな人だと思っていなかった。正式採用する前にそれがわかってホッとしたというのだ。

良いところ、悪いところ、清濁あわせ飲んでみてウマイかマズイかを見てもらおう。良いところだけを抽出して飲んでもらってはウマイに決まっている。清濁あわせ飲むためには最低でも一週間程度は実務面接試験がいると思うのだ。

教訓:人を採用したければ、一週間ほど実務面接試験をしてから採用か不採用を決定しよう。
   その間に、あえて会社や社長の弱みや問題点もさらけだし、開き直るのではなく、問題は問題として共有しよう。

この事件簿を読んであなたは何を感じましたか?