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卓越の戦略

小さな商いをしていた会社が、ちょっとしたことをきっかけに業績を飛躍的に伸ばすことがある。いままでと違う視点をもつことで従来の仕事に新しい息吹が加わるわけで、それをブレイクスルーという。ラーニングエッジ株式会社が提供しているマーケティング・ブレイクスルーの音声データを聞いていたら大変興味深い事例が出てきた。

それは、NEC の PC 98シリーズの保守とサポートを専業にしている会社の事例だった。98シリーズといえば、80年代から 90年代にかけて日本の PC 市場の過半数を占め続けたトップシェア製品である。「98にあらずんばパソコンにあらず」といえるほど一世を風靡したが、Windows の登場で NEC も VALUESTAR を投入し、98シリーズは販売を終了した。2010年にはメーカーによるサポートも終了している。

常識的に考えれば、90年代後半には PC 98のパソコンを新規で売ったり、その保守を仕事にしようという人はいなくなってもおかしくない。多くの PC 98関連業者は転業・廃業していったはずだ。

ところが小さな町工場では今でも 98シリーズのパソコンが稼働している。98用に開発されたソフトウエアが生きているのだ。パソコンが止まってしまったり、フロッピーなどの周辺機器が故障したら一日○万円単位の損害がでる。そんなお客の駆け込み寺のような会社があり、クリオネット有限会社もそんな会社の一社なのだ。
http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3999

そのクリオネットがいま最高決算だという。「え、なぜ?」と思う。それと同時に「さもありなん」とも思う。クリオネットの事例を解釈するとき、単に「需要と供給のバランスに目をつけた発想の勝利」と考えてしまうと本質を見誤る。

売り手は製品やサービスを売る人、買い手はそれを買う人という発想を超越したところに同社の強みがある。買い手の現場を知り、買い手以上に現場の問題とその解決策を熟知している存在がわが社であると自覚しているのだ。お客はカスタマー(消費者)ではなくクライアント(専門家の保護下にある人)であるという関係を構築してきたのだろう。

どんな場所でどんなビジネスをしていても、マーケティングが正しければ充分戦えるということを教えてくれている。