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芸人魂

ステージマイクの前に立つと、聴衆に向かって「オッス」と声をかける。それを聞いてファンもオッスとばかり拍手する。
「バタやん」とニックネイムでよばれ、ギター片手に戦前戦後を駆け抜けた名歌手・田端義夫氏は、大正8年(1919年)1月1日生れなので、間もなく86才になられる。

昭和14年、島の船唄でのデビューなので、「今日の言葉」を発したのは昭和59年(65才)の頃だろう。
私は、65才になっても「まだまだ」とか「これから」と言える人間になりたいと思う。

もともと、役者や芸人に年齢など不問だ。若いときだけが旬ではない。むしろ、高齢になるにしたがって競争相手が減ってくるわけだから、良い仕事をしていれば相応の仕事がとぎれずに入ってくる。

俳優や落語家、講釈師のように年齢が増すほどに芸風が完成されていく職種だってある。

「芸ってのは、出来、不出来はあって当たり前ですよ。芸ってのは出来の悪い日があるからいい芸がひき立つんで、名人ほど出来不出来があります」と語るのは神田松鯉(かんだしょうり、講釈師)氏だ。

名人ほど出来・不出来があるというのは逆説めいていて興味深い。
常識で考えれば、名人には出来・不出来が少ないように思うのだが、そうではないと講談の大家が言うので説得力がある。

私なりの理解で考えるならば、名人とは、同じことを百回やれば百回とも成功させられる人を言う。
それゆえに、違ったやり方を毎回試みるので、毎回新鮮だ。当然その中には、出来・不出来が含まれる。

大切なことは出来不出来という結果よりも先に、挑戦だ、ということか。

市場や顧客ニーズに応えていくために、企業の経営者はなるべく早く世代交代すべきだろうが、経営を芸の域まで高めていく工夫やそれを後生に伝えていく役割はエンドレスで続くはず。

死ぬまで現役や、というバタやんの言葉にもそれが感じられるではないか