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仕事の躾が経営力の下支えになる

東京の A社長(女性)から近況を知らせるお便りを頂戴した。

この方は半世紀以上の社歴をもつ建材卸しの A社を経営され、同社を業界でも大手企業に育て上げられた。最新の決算で、売上・粗利益額・回収率とも過去最高を記録し、2020年の東京五輪が終わるまでは増収増益基調の見込みであるという。

新聞などによれば、首都圏の不動産市況は底堅く、住宅も商業施設も好調らしい。したがってA 社が好調なのもうなづける。しかし、関東の建設業界は、深刻な職人不足による人件費の高騰や、消費増税後の受注の反動などもあって、かえって業績を悪化させている会社も多いと聞く。そんな、まだら模様の環境にあって最高決算を弾きだしたのは、同社の経営力の勝利だと私はみている。

以前、私は A 社に何度かおじゃましたことがある。そのときに感じたことは「徹底力の高さ」である。やっておられるこ
とのひとつひとつはすべて常識的で王道を行くものである。奇をてらったことは一つもない。ところが、それらの徹底度合いが非常に高いのだ。

例えば、
・毎年、A 社長は「経営計画書」を自分で作り、発表会をやってきた
・「経営会議」を定期開催し、身内以外の役員も登用、育成してきた
・支店別管理、部門別管理、商品別管理、客先管理など、可能なものはすべて数字で把握し、数字にもとづいて議論する社 風がある
・幹部研修、中堅社員研修など、研修教育に時間と費用を投じてきた
・攻めと守りのバランスを取っている(取らせている)
たとえば、新規客先開拓を強く社員に要望しつつも客先別利益率や回収率なども同時に要求する。
攻め(守り)が強いので、守り(攻め)が弱くても OK という考え方は同社のなかで通用しない。
・新しい手法(たとえばネットを使って集客するなど)を試す場合は、どこかの支店か部門で小さくテストし、その反応を 見てから徐々に広げるか、撤退するかを決める。
・いつも経営課題を明確にするようにしている。ある時期は「徹底した回収率の強化」、別の時期には「社員満足度の向  上」、ある時期には「新規開拓件数の必達」といった具合。

それらを飽きることなく深掘りさせてきている。

たまたま今日の「がんばれ!社長」のヘッダー広告は「FAX を使った DM がいま再びアツイ」というセミナーの案内だが、こうしたニュースが A 社長のアンテナに引っかかるとすぐに社長自身が受講するか担当者を派遣する。

そうした素直かつ俊敏な行動力と、物事をうやむやに終わらせず、けじめをきちんとつける仕事の躾が経営力を下支えしてきた。どんな悪いときでも赤字を出さず、少しでも市況が好転したらすぐに最高決算になる経営体質に少しずつもってきたのである。経営に終わりはない。今日もなにかを決めて、何かを実行し、何かに警報を鳴らしている。