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きちんとした話し方

早いもので日本話し方センターの江川ひろし先生が没後1年半が経過した。江川先生は、昭和28年に日本初の「話し方教室」を開業し、以来半世紀にわたって話し方の指導専門で事業を発展させてこられた方だ。
その江川先生が生前、秘書の島田浩子さんと、「うちの会社は創業者一代限りで幕を下ろそうよ」と決めていたという。あまりにも強い個性とカリスマ的人気を引き継ぐ後継者はいないだろう、というのがその理由だったらしい。

ところが・・・。

いみじくも最後の講義となった東京講演で、話の終盤において江川先生が、
「このなかから、第二の江川ひろしが生まれてほしい。そして、この話し方の心を伝えてほしい・・・」と涙ながらに受講者に訴えかけたという。この当時、江川先生は入退院をくり返し、地方での講演の際には、休憩ごとにホテルの自室で透析を受けていたという。その姿をつぶさに見ていた島田さんは、「幕を下ろすことはできない」と内心で思っていたに違いない。

“正しい話し方は正しい生き方に通ずる”という信念のもと、文字通り命を懸けて受講者を指導する江川先生の形相は、鬼気迫るものがあっただろう。幸いにも直接のご指導を受けたことがある私も、「先生、立たなくて結構です。大きな声を出さなくても結構です。どうぞ、お座りになったままお話し下さい」とお願いしたことがある。しかし、「これが僕の流儀ですから」ととりあわない。それが江川流だった。

先生が没後、島田浩子さんが悩み抜いた末に、日本話し方センターの社長に就任されて。

「どこまでやれるかわからないけれど、私なりにやれるところまでやってみよう」

以来、実に大活躍しておられる。

“話し方の指導”というコンテンツを、従来の教室展開の他に、ネット対応も始めているのだ。ホームページの刷新、江川先生のCDセットのネット通販、メルマガの発刊、など立て続けに新たな手を打ってこられた。

その島田社長が今週、インデックス・コミュニケーションズ(旧オーエス出版)から『きちんとした話し方のコツ』を上梓した。

さっそく私も読んで見たが、江川先生の半世紀におよぶ業績がこの一冊に集約されているようでうれしい。単なる「話し方」の技法に関する問題ではなく、いかに生きるか、いかに周囲と適切な関係を築くかという我々の大問題が「話し方」なのだ。

もともとが、気っ風の良いベランメエ調の江川先生のことばを、島田社長が優しくシルクに包むように翻訳して下さったように思える著作だ。
すでに江川先生の本を読んだ人も、読んでいない人にもご一読をおすすめしたい。

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