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山村社長の頭痛

「困ったなあ。これも『ピーターの法則』ってやつかなぁ?」

山村精工所(仮名)の山村社長(61才)がこぼした。40才で山村みずからが起業したこの会社は、バブル後の不況のさなかでも順調に業績を伸ばしてきた。ところがその山村には、頭痛の種がある。

創業のころからパートナー同然で働いてきてくれた伊藤工場長(51才)と木村営業部長(48才)の扱いに困っているのだ。彼らは、山村とともに会社の取締役を任せているのだが、若手の追い上げにあってリーダーシップを発揮しきれていないという。まだ年齢的に若いにもかかわらず、部下の成長の芽を摘むような場面もあるというのだ。

ところで、最近書店でも話題になっている「ピーターの法則」とは、・・・階層社会にあっては、その構成員はそれぞれ無能のレベルに達する傾向がある・・・というものだ。

たとえば、平社員として大変良い仕事をするので課長にした。すると期待に応えてくれたので今度は部長にした。やがて、いつしか「並」の部長になり、取締役として経営陣に加わってからは、無能に近い存在になってしまう。こんなケースは決して少なくない。

この法則には、「系」と呼ばれるものがあり、

系1・・・時がたつに従って、階層社会のすべてのポストは、その責任を全うしえない従業員によって占められるようになる傾向がある。

系2・・・仕事は、まだ無能のレベルに達していない従業員によって遂行される。

というものだ。

「何か妙案はないものでしょうか?」と山村は武沢に相談した。ことの詳細を聞き終わった武沢は、ドラッカーの言葉を引用しつつ次のように話しはじめた。

「山村さん、ドラッカーはこう言っているのをご存知ですか。

『仕事に挑戦を感じなくなった者は成長が止まったと思う。たしかに現在の仕事では、成長が止まったかもしれない。だが、有能であり、病気でないならば、仕事さえ変えれば再び成長する。第二の人生は、仕事への不満や倦怠から逃げるための酒や、火遊びや、精神分析医よりも、はるかに面白いはずである」』

というものです。」

「ん?それが伊藤君や木村君とどんな関係があるの?」と山村は怪訝そうな顔でふたたび尋ねた。

「よ~く考えてみましょう。社長ご自身は創業以来21年間というもの、あらゆる仕事に挑戦し、かつ勉強してこられました。ときにはマーケティング、ときには財務やキャッシュフロー管理、ときには製品開発、ときには組織や人事、ときにはリーダーシップという具合に短いサイクルのなかで関心あるテーマを勉強し、その問題に取り組んできたおかげで立派な経営者として自らを育ててこられたわけです。ところが、伊藤さんや木村さんはどうでしょうか?」

「う~ん、どうなんだろう?」

「彼らのキャリアアップや技能開発というテーマに、それほど深い注意をはらってこられなかったようですね。」

「それは認めざるをえない。伊藤君は工場長として製品の品質や納期などの管理などを任せてきた。取締役工場長に就任してもらってから、かれこれ15年近い月日がたつなあ」

「木村さんは?」

「木村君には営業本部長として受注活動の矢面にたってもらってからこれも10年ほどになる。早いモンだよね。」

「最近では彼らにどのようなチャレンジをしてもらっていますか?」と尋ねると、目先の業績目標を追いかけるための挑戦しかさせていないという。新しい仕事とよべるような仕事は、ここ何年ものあいだ、任せたことがないのだ。

人は新しい環境に適応するために、18ヶ月間は必死に努力する。だが、それに慣れてしまうと成長が止まる。本当に成長を期待しているのならば、環境を変えてやらないといけない。

今から伊藤・木村のご両人が本社に駆けつけるという。さっそくお会いして彼らの率直な意見を聞いてみることにした。

<明日につづく>