未分類

シュリーマン

新雪で覆われた原っぱで三人の少年が賭けをした。“誰が一番まっすぐに歩くことができるか”という賭けだ。

「僕からやる」とA君が手をあげ、スタートした。彼は、一歩一歩慎重に歩をすすめながら、ゆっくり時間をかけた。原っぱを渡り終わり、ふり返ると、見事なカーブを描いていた。まっすぐ歩くことに失敗したのだ。

それを見ていたB君は、A君の失敗を教訓にして、10歩歩いては立ち止まり、後ろをふり返って軌道修正しつつ歩んだ。すると、のこぎりのようなジグザグの歩みになってしまった。A君以上の失敗だ。

最後に挑戦したC君は別の方法を試みた。前方にある建物の煙突とそのはるか向こうにある山のいただきをかさねあわせ、ずれないようにして歩いた。すると、見事一直線に歩くことに成功した。

煙突という“短期目標”と、山のいただきという“長期目標”を重ねあわせる工夫がC君に成功をもたらした。

私もそんな人生を送ってみたいものだが、どうしてこんなに道草や、脇道にそれることが多いのか。だが、「人生ってそんなもの」と開き直るのはちょっと待て。

「がんばれ社長!」の読者が4千人を超えた三年前のクリスマス、『夢を掘り当てた男』と題してシュリーマンの物語をご紹介した。

彼は、岩波文庫の「古代への情熱」の作者であり、主人公でもある。68年に及ぶシュリーマンの生涯こそ、C君の歩みのような見事な人生であり、私が大好きな物語なので、再びここにご紹介したい。


ドイツ人・シュリーマンは、子供のころに父親から何度も聞かされた、「ホメロスの物語」を忘れることができなかった。それは3000年以上も前のギリシャとトロヤの戦争物語だ。まるで神話のような大昔の話だ。やがて彼は、「ギリシャに滅ぼされたトロヤの遺跡が必ずある」と信じるようになる。そして、「トロヤ遺跡の発掘」を人生の最終目標に決める。


それからの彼の行動が現代人と違うところだ。彼は人生を逆算方式で生きることを決意する。彼の戦略はこうだ。

◇最終目標・・・トロヤの遺跡発掘
◇中間目標・・・発掘資金と時間を確保するための充分な富の蓄積
◇短期目標・・・貿易商人として成功する
◇手段・・・貿易に必要な語学をマスターする

夢に向けた最初のステップ、それは14歳のときである。商業学校を卒業し、遠くの村の食料雑貨店で働く。朝5時から夜11時までコマネズミのように働きながらも、ホメロスの物語を自分で読むために、ギリシャ語の勉強を志す。しかし現実は厳しく、勉強のための本を買うお金も時間もなく働き続け、やがて健康を害して退職する羽目になる。

雑貨店をやめた彼は、外国へ行く船のボーイになるが、そこでも彼を待ち受けていたのは「不運と不幸」でしかない。乗った船が嵐で沈没し、丸裸でオランダの海岸に打ちあげられたのだ。
志を立ててから早6年、すでに20歳になっていた彼の前途には、希望の光は一筋もなかったかにみえた。

だが、絶望のどん底に見たこの大地が、シュリーマンの開運のワンダーランドとなる。

<明日につづく>