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一年の半分を休みにするレストラン

ある食事会で中華レストランの W 社長と隣になった。W 氏(50)は 一年の 3分の 1は海外に食べ歩きに出ているという。税務署に経費算入を認めさせるために、レシート管理はもちろんのこと、現地でのスケジュールや食べた物の味や食感の印象など、すべて記録を付けているため、全額損金算入が認められているという。

いつもカバンには、「料理ノート」が入っていて食べたものや飲んだもので印象に残ったことを記録するそうだ。この時も、数人で名古屋コーチンの店に行ったが、座ると同時に箸置きに感心し、何枚も写真におさめていた。

「ところで武沢さん、人生の思い出に残る料理(食事)ベスト 10は何ですか?」と聞かれた。「おふくろの味」とか、「かみさんの手料理」とか「初めて飲んだコーラの衝撃」のようなものは加えない。あくまで外食(宿泊食も含む)に限るベスト 10を言え、という。

「そんなの無理ですよ」と言いつつ私は日本の南から順に北へのぼっていけば良いだろうと 47都道府県すべてを思いだしていった。

今日の本題から脱線するが、少しだけ私のベスト 10(候補)をご紹介してみよう。

・沖縄の岸本食堂で食べた沖縄そばと、その近くの新垣ぜんざい
・鹿児島の天文館で食べた黒豚しゃぶしゃぶ、きびなご
・佐賀の居酒屋「風林火山」で食べた呼子のイカと近海のアジ
・かみさんと行った湯布院の温泉宿の懐石コース
・下関(山口県)の春帆楼(しゅんぱんろう)で食べたふぐ懐石
・高知で食べた初鰹
・高松(香川県)の居酒屋「武蔵」でたべた魚類、讃岐うどん
・丹後半島の「かにの宿」でたべたカニ懐石
・生まれて初めてたべたうなぎ丼の衝撃(静岡)店名不明
・焼津市内の寿司屋で食べた本マグロの中トロ、赤身
・取手(茨城県)でたべたアンコウ鍋
・塩竃でたべたすし哲本店の寿司
・青森でたべたきのこ鍋(尺八の生演奏付き)
・別の年、青森でたべたキンキの煮付けとホタテと寿司
・秋田でたべたいわがき
・知床の旅館でたべた北海懐石
・北海道各地の魚、寿司、カニ、牡蠣、生ジンギスカン、ラーメン etc.
・初めての海外旅行(アメリカ)で食べたステーキやローストビーフのでかさ(味よりもカルチャーショック)
※店は「ローリーズ」と「ピナクルピーク」だったと思う

「お恥ずかしいですがこんなところですかね」と私が話すと、「武沢さん、それって料理以外のものも入ってますよ。たとえば素材の素晴らしさのようなものも」と W 社長。たしかに刺身や牡蠣などは素材そのもので、料理と言えないかもしれない。

「私はこうです」と W 氏は スラスラと店の名前と料理の名前が出てきた。イタリアのローマにある『○○○』という店で出す「×××」という料理、という具合である。何も見ずにスラスラと出てくるところなど、いかにも料理のプロらしいところ。日本のレストランや料亭も入っていたが 7割は外国の店だった。

そして彼が「1位」にあげたのがスペインの『エル・ブリ』だった。

人気の絶頂にありながら 2011年に突如閉店し、オーナーは料理財団を立ち上げる準備中だそうだ。『エル・ブリ』は座席数 45ながら、年間で 200万件の予約電話が入り、世界でもっとも予約のとりにくい店といわれた。メニューはひとつのコース料理のみ。値段は 285ユーロ(4万円)。一年の半分は店を休む。ざっくり言えば、1月から 6月を休み、7月から12月まで営業する。休みの間はメニュー開発や世界の料理を食べ歩く。W 社長もそれにならって 3年前から世界食べ歩きを始めたという。

<あすにつづく>