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拙速と衝動 ある開発会議

Rewrite:2014年3月26日(水)

ある会社の会議に参加した。この会社は、岐阜県に本社をおく30名程度の町工場だ。社長は団塊の世代。アイデアマンで、いつも新製品の開発を考えておられる。

社長:「スマホや携帯のストラップがあれだけ売れているのだから、同じようにオイルライターに取り付けるストラップがあれば便利だと思わないかい?」
幹部:「面白いですねぇ、それ。そこそこ売れると思いますよ。」
社長:「そこそこ、か。月産1万個くらいの販売を考えいるのだが、どう思う?」
専務:「今、ネットで検索してみましたら、すでに出てますね。ライターストラップというものが。それどころか、香水ストラップに、砂時計ストラップ、ぬいぐるみストラップなんてものまでありますよ」
社長:「それは私も調べてある。雑貨販売のサイトなどで売られているようだが、どこも売り方が下手だと思う。アイデア商品として売っているようじゃ売れるものも売れない。オイルライターマニアの心をくすぐるようなホームページを作り、直販したいんだよ」
専務:「いいですねぇ、それ。やってみましょうか」
社長:「うん、やろうよ。武沢さん、どう思います?」

私は返答につまった。

この日、この開発会議のあとの経営会議にゲストとして招かれていた私は、ライターストラップについてはまったくノーアイデアなのである。この社長は社内でも尊敬されている様子で、専務も幹部諸氏も社長の発言に対して好意的のようだ。ある意味「イエスマン」のようでもある。「どうなの、武沢さん」と社長に催促され、私はこう言うのがやっとだった。

「私もオイルライターを使っていたことがありますが、ストラップが欲しいとは思いませんでした。それはさておき、御社ではいつもこうした議論で新製品開発が決まっていくのですか?」
社長:「そうですけど、何か?」
武沢:「もう少しデータに基づいた議論がいるのではないでしょうか。例えばオイルライターのユーザーが何人いるか、とか販売計画や収支見通しなども必要なのでは?」
社長:「当然そうした作業はあとからやります。まず基本路線として面白いのか、面白くないのか、という部分で合意が得られれば良いのではないでしょうか」
武沢:「あ、なるほど。アイデア出しの段階なのですね」
社長:「でも決まれば実際に開発にとりかかります」

いやはや、兵は拙速を尊ぶとは言うが、これでは拙速にすらなっていない。「衝動的」という言葉がピッタリの開発会議である。
アイデア出しだけであればこれぐらい気軽に自由な雰囲気でやれば良いが、実際にコストをかけて開発するのであれば、もっと計画的に仕事を進めねばならない。