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見込客が奏でる音楽

昨日号では、『言葉と音楽』と題して、相手の言葉だけでなく、奏でる音楽にも耳をかたむけようというお話しをした。
すると、あるマンション会社の営業担当役員の方から次のようなお便りがとどいた。

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昨日のマガジンの内容は、人対人のコミュニケーションをテーマにしてものすごく参考になりました。今回のマガジンの内容は、営業の現場でも全く同じことが言えます。言葉だけを鵜呑みにしていてはセールスできないのです。私の会社の営業部門にM君という若手社員がいますが、彼の場合も相手の音楽に耳を傾けなかったために18ヶ月もの間、苦しい日々が続いていたのです。
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とあり、以下のような内容がつづられている。

営業マンのM君は、昨年4月の入社以来いまだに数件の受注しかない。同期入社8名の中で最悪だ。会社としては、本来なら成績不振で解雇したいが、M君は人柄もよく、裏表なくまじめに働いているので、会社としても温情で彼の雇用を維持している。

だが、今のままではお互いのためにならない。危機感をもった営業担当役員は、ある日、M君の商談トークをロールプレイさせた。そのトークは、社歴の浅いわりには堂々としたものだ。売れないわけがない。
そこで別のある日、営業に同行してみた。うまくいけば今日契約できるかも知れない見込客への訪問だ。

だが、そこで信じられない光景をみた。これでは売れるわけがないのだ。

マンションを買おうかどうか迷っているお客に対して、M君の方から「今日は買わなくてもよいですよ。」と言っている様子なのだ。

正確にいえば、次のような会話になるという。

(今日の見込客には、合計6回目の訪問なのでそろそれ契約締結したい商談の最終場面)

客:「今回も沢山資料をいただいてありがとう。いつも悪いね。」
M:「とんでもないことです。それより、そろそろ購入をお決めになったらいかがでしょうか。」
客:「そうだねぇ。たしか、毎月11万円だったよね。う~ん、微妙な金額なんだ。そんなにすぐには決められないよ。」
M:「でも、思い切って決めちゃいましょうよ。」
客:「でもなぁ・・・、(うで組みして沈黙)」
・・・(双方20秒ほど下を向いて無言)
M:「じゃあ来週もう一回来ますからそのときにはよいご返事をお待ちしています。」
客:「そうだね、それまでにじっくり検討しておくから。」

普段からこういう商談をやっているというのだ。緊張のクロージングの場面になると、いつもM君の方から口を開き、「ご検討下さい」を連発しているようなのだ。

相手を困らせたくない、という彼の温情。それは、典型的な「ナイス・ガイ」だ。
単なるナイス・ガイでは大した仕事はできない。商談でもっとも緊張する場面は、購買の意思決定をせまるときだ。その時になると、見込客は弱気になったり、攻撃的になったりして感情が表面に出る。時には黙りこくってしまう人もいる。
そうした緊張場面に弱いM君は、逃げるようにして「ご検討下さい」と言ってしまうのだ。

ではM君はどうすればよいのか。そのヒントが、「言葉ではなく、音楽を聞く」ようにすることなのである。

<明日につづく>