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プロのスカウトマン

「年は取るもんやね」と語るのは、今年 2月で広島カープを退職された宮本洋二郎さん(71)。他球団から「宮本さんは誰を狙ってるの?」と噂される伝説のスカウトマンである。「最後の目利き」とまで賞する人がいる。

最近では PL 学園のエースピッチャー、マエケンこと前田健太投手をカープに入れた。福井も今村も野村も堂林もそうである。

年を取るとなぜ良いか。夏の暑い日も冬の寒い日もスーツを着、ネクタイを締めて毎日のようにグランドに来てくれる老齢のスカウトマン。その姿は、選手本人だけでなく他球団のスカウトにも目立つ。当然、存在感を示すことができる。年を取ることはメリットの方が多い、というわけだ。

マエケンは語る。「宮本さんが毎日、毎日来てくれて、他のスカウトの方は途中で帰られるんですが、宮本さんだけは最初から終わりまで、暗くなるまで見ていてくれました」選手もスカウトマンをみているわけだ。

宮本さんはなぜマエケンに惚れたか。それは尻の大きさと形らしい。良い選手は例外なく尻がいい。尻がいいと、体力があり、練習ができ、上達する。尻が貧弱だと体力に乏しく、練習量が劣り、上達しない。大きいだけでなく、モッコリした形も重要なのだとか。今度、そんな点に注目してテレビ放送を見てみよう。

練習中も試合中もチームメイトによく声をかけ、仲間を大切にする選手は伸びる。アイツのため、と仲間が守ってくれ、打ってくれるからだ。マエケンは PL 時代はもちろん、プロに入ってからもそれが実によくできているから日本のエースになれたのだろう。正直、宮本さんもここまでの投手になろうとは予測できなかったらしいが。

そんな宮本さんでも、時には入団交渉で激怒することがあるそうだ。しかも交渉を打ち切って席を立つこともあるという。「あなた方がそういう考えなら、広島カープとしてこの話はなかったことにします」と席を立った。京都出身のその捕手はその後、プロの世界に入ったそうだが案の定、活躍していないという。

プロで通用する素質がありながらも願い下げになる選手とは、考え方がプロ的でない人だ。特に本人の取り巻き(親や親戚など)に身分保障を要求する人がいるとうまくいかない。京都のその捕手の場合、本人と親はよかった。だが、最後の最後に親戚のオジサン夫婦が出てきて、入団交渉の席で「宮本さん、やめたときはどないしてくれるんですか」と言いだした。

これからプロで腕を磨いてやっていこうという若者を前にして、退団するときの保障を要求するようではうまくいくはずがない。いずれ「そんな球団やめとけ」「プロ野球選手なんかあほらしい」となるのが目にみえている。選手とその家族はもちろん、学校関係者や親戚とまで会って本人の周囲の環境を知り、理解をもとめる。それがスカウトの仕事らしい。

プロ野球のスカウト活動をビジネスに置きかえるとどうなるか。これぞという若者がいたら何年生かは関係なくアプローチを開始する。本人と会い、可能性があるかぎりアタックを続ける。本人のその意思があれば、家庭にも訪問する。そして、本人と家族を前に会社を説明する。仕事内容や育成方針、評価と賃金についても語る。職場見学会も催す。さらには学校にも出むき、先生と会う。アルバイトをしているのなら、そのバイト先まで出むく。

こうして、ひとりの若者を採用するのに何年もの時間をかける。そうした会社が結果的には採用ミスが少なく、定着率も高く、優秀な活躍をしてくれる人材をたくさん保有する会社になるのだろう。

(参考:『週刊現代』2013 4/27号)