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「クラッカー野郎」の教え

Rewrite:2014年4月2日(水)

「クラッカー野郎に何ができる」
IBMの会長に就任した当時、ルイス・ガースナーは周囲から冷ややかな反応で迎えられた。1991年第一四半期で、米国IBMは17億ドルという巨額な赤字を計上。93年にエイカーズ会長が更迭されるまで、同社は回復のきっかけをつかむことができないまま、窮地にあった。

“クラッカー野郎”とは、食品会社ナビスコを再生したガースナーのことだ。その手腕を買われてのIBM会長就任なのだが、周りの役員は過去の成功にあぐらをかいて、今の苦境は一時的にすぎないと楽観していた。

「このピンチも長くは続かない。なんと言っても俺たちはIBMなんだ」

そうした役員に対し、就任間もないガースナーは、「過去の名声は通用しない」と語りかけた。
すると優秀な経歴をもつエリート役員たちは、
・「戦略を聞こう」
・「具体策を示せ」
と逆に詰め寄ったという。

そのとき、ガースナーが言った言葉がしゃれている。

「私自身には戦略などといったものはない。いまの我々の企業にとってはそんなものは重要ではない。戦略やプランを話し合っている状況ではない。船は沈みかかっているのだ。今いるところから脱出することだけが戦略といえば戦略だ」

このガースナーのもと、IBMは2年めで黒字転換し翌3年目には最高益水準にかえり咲いた。

ガースナーの座右の言葉である「デスクの後ろに座って世界を見るのは危険なことだ」の通り、彼は会長に就任するやいなや世界中の主要顧客と会談を重ねた。半年間でなんと3万人の顧客に会ったという。計算してみたら一日平均200人。日本にも93年7月に来ている。

IBMといえば、『ビッグ・ブルー』と呼ばれた。
1960年代後半、同社が営業部員に青いスーツを着用させるようになり、それがこの異名の由来となっている。
余談だが、服装を銀行マンに似せることで銀行からの受注を狙った、とささやかれた。とにかく同社は、服装に厳しい会社だった。

ガースナーはその伝統をも破った。
カジュアルを許可し、みずからもノーネクタイで仕事をした。
彼は語っている。

「ノーネクタイは、それが方針だから貫いているわけではありません。ルールでがんじがらめになった組織は基本的に弱いのです。偉大な組織は原則にのっとって皆が行動する組織です。つまりルールではなく原則にのっとって動く組織です。ルールだけ守っていれば成功したと思いがちです。これは内部の尺度であって、外部の市場とかお客様といった尺度ではありません。過去18ヶ月間に服装以外でも多くのことを変えました。大切なことは社内で成功することではなく、社外で成功することです。昔はネクタイをしなければいけませんでしたが、現在ではネクタイをしないほうがいい。だからといってそれをルールにするのはよくないことです」

“クラッカー野郎” ガースナーは私たちに三つのことを教えてくれた。

1.“戦略を語っている状況ではない”という時があること
2.ルールよりも原則にのっとることが大切であること。
3.“成功”にも内部の尺度と外部の尺度があること。