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カルロス・ゴーン

マガジン01/10/12号で「危機感によるマネジメント」の限界について書いた。
http://www.e-comon.co.jp/e-comonclub/backnumber/011012.htm

すると某大手自動車メーカーの読者からメールを頂戴し、当社でもご多分にもれず危機感によるマネジメントがなされているという。
いわく、
・米国ビッグ3に負けているぞ
・シェアが落ちはじめている
・燃料電池の開発で○○社に遅れをとっているぞ
・今期の利益は為替のおかげだ、気を抜くな
・・・etc

などなど、「優良企業」でも危機感をあおることの連続だという。

危機感と緊張感とは異なる。優れた経営者やマネジャーが部下を鼓舞するために使う手法は建設的・創造的な緊張感作りだ。
“限界がある”と断じた「危機感によるマネジメント」とは破壊的なものだ。

例えば、
・このままでは当社に明日はない
・雇用の維持に責任がもてない
・給料のカットも覚悟して欲しい

など破壊的な状況を暗示する言葉を連発することはかえって害があるということを申し上げたのである。

そうした緊張感と集中力をもっている屈指の経営者がカルロス・ゴーン氏(1954年生まれ、47才)だろう。この2年間、彼ほどマスコミから注目される経営者は珍しいのではないか。
その彼が、自ら書いた『ルネッサンス -再生への挑戦-』を読んだ。
あの風貌から予想していたゴーン氏のイメージが完全に覆されるものだ。
私はゴーン氏を初めて新聞で見たとき、徹底した合理主義の精神と、西欧流の利益第一主義にとりつかれた、私とは異質な人間だと思っていたのだ。
しかし、それはこわもての外見からくる勝手な想像に過ぎなかった。
ブラジル生まれのフランス人。中東のレバノンの血が流れるごく普通の感情をもった人間だということがこの本でわかった。

しかも、経営者になるための専門的教育を受けたわけでもなければ、とっておきの書物や師匠があるわけでもない。
むしろ、「その種の本を読む必然性を感じたことは一度もない」と言い切る。
ミシュランやルノーというフランス本社の多国籍企業をマネジメントする経験のなかから自ら学び、考え、たどり着いたのがゴーン流経営である。

私なりにゴーン流経営の特長を整理してみると

1.目標のバランス
世界の企業を経験してきたなかで、それぞれの国家がもつ特長も学んだ。それはフランス企業がもつ長期的・戦略的視点と、  アメリカ企業がもつ短期的・合理的視点の双方がバランスされている点に表れている。

2.クロス・ファンクショナル
部門を横断したコミュニケーションをきわめて重要視している。ルノーのナンバー2に就任したときも日産のトップに就任し  たときもこのクロス・ファンクショナルを重点課題にあげている。その理由はシンプルだ。
自部門が悪いとか、私が悪いとかは誰も思っておらず、漠然と社内に問題があると感じているからだ。隠れた問題を明るみに  出すためには部門を横断した会話が欠かせない、というものだ。

3.責任感
「この計画でやってみてダメなら計画を修正しよう」という安易な腹づもりで計画をスタートしていない。この計画がダメな   ら、トップの自分が責任をとるという不退転の決意が部下を本気にさせている。

最愛の妻と4人の子供たちとともに、フランス、ブラジル、アメリカ、そしてまたフランス、やがて日本というように家族を引き連れての経営者行脚だ。
『ルネッサンス』を読めば、彼も家族に返れば普通の夫であり父親であることがわかる。
一日24時間体制で仕事をしているように見えるが、最も大切にしている時間は家族との時間であることを告白している。しかも帰宅後は書類にも目を通さないし、メールチェックもしない。子供達はゴーン氏が日産の社長だとは思っていない。
車に乗せてくれ、買い物に出かければ何かを買ってくれる友達ぐらいに思っている。

言葉も文化も環境もすべて異なるなかで、ゴーン流経営がどこでも通用することを証明してきた。そして日本でも快進撃が続いている。