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トレードオフ

広告企画の会社を創業して間もないAさんとお会いした。

「武沢さん、まもなく一期目の決算になるのですが、いきなり赤字決算になりそうで今ちょっと焦っている日々を送っています。」と言う。
仕事がないのですか?と尋ねると、むしろその逆で、眠る時間を削らねばならぬほど忙しいというのだ。

「ちょっとこれ見て下さい」と手帳を見せられたが、たしかに予定がビッシリ書き込まれ、スケジュール蘭は真っ黒だった。

ヒマだから赤字になるというのなら誰でも理解できるが、私生活を犠牲にするほど忙しいのに赤字だ、というのが解せない。

そこで、次の話を申し上げたところ、「なるほど!思い当たります。」とのことだった。

●100メートルを最短時間で走るには10秒かかる。マラソンで42,195メートルを走るには、130分(7800秒)かかる。

この場合、秒速を計算すると

・100メートル走の場合・・・10メートル/秒
・マラソンの場合・・・5.4メートル/秒
となる。
いずれも世界記録保持者の所要時間だから、私はその何倍かはかかる。

仮に、マラソン大会に参加して秒速10メートルで走り出せば優勝することはとても出来ないし、100メートル走に出場して秒速5.4メートルで走っていても勝てるわけがない。

スピードと引き替えに距離を求めるのがマラソンであり、距離と引き替えにスピードを求めるのが100メートル競走なのだ。
このように、何かと引き替えに何かを取る、という関係を「トレードオフ」と呼ぶ。

・24時間営業と引き替えに多くの客数を集めるコンビニ
・安心と引き替えに納得して支払う保険料
・値段の高さと引き替えに食事と交友を楽しむ高級レストラン
・味と引き替えに時間を節約できるファーストフード

・・・事業とはすべてがトレードオフの関係にある。ユニクロや吉野家のように低価格・高品質というトレードオフの最適値を提供したところが好業績をおさめるということだ。

ひるがえって考えると、私たち個人もひとりでトレードオフをやっている。

・今の仕事をやるために、他の仕事を後回しにする
・成功したいがために、今の楽しみを我慢する
・効率を上げるためにパソコンに投資する
・コミュニケーションを良くするためにメールや携帯電話を使う
・貯金をするために無駄遣いを減らす

・・・人生とはすべてがトレードオフかも知れない。

「今といずれ」というトレードオフもある。限られた時間のなかで多くの期待に応え、約束を守り、責任を果たしていく。やるべきことや、やりたいことの多さの割には時間の絶対量が足りないのだ。
そこで、「今」か「いずれ」かのトレードオフを私たちは毎日判断している。

・自分がやらなくても済むことは断じてやらない。
・後回しして構わないことや、後回しにしたほうがうまくいくことはためらいなく後回しする。
・今やっておかないと後になって困りそうなことは今すぐやるこれも時間の使い方に関するトレードオフだ。

「今といずれ」には他にも意味がある。

・今の必要を満たすための時間
・いずれ必要になりそうなことのために使う時間である。

目標に焦点が当たっていないとスケジュール蘭は「いずれ」の案件ばかりで埋まってしまう。
大会社の社長であればそれも悪くないが、創業間もないスモールビジネスの社長が「いずれ」の案件ばかりに忙殺されていては「今」の結果が出るはずがない。

「今といずれ」のバランスを見直してみる必要がありそうだ。