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漢字の多い生き方、ひらがなの多い生き方

サンマーク出版の植木宣隆社長は編集者として26年、社長として17
年あわせて43年ものあいだ出版の世界を生き抜いてこられた。
前半は右肩上がり、後半は右肩下がりの出版界にあって『脳内革命
の430万部を皮切りに100万部超の大ヒット「ミリオンセラー」作品を
8作も出してこられた。
「運が良かった」とおっしゃる植木社長だが、経営手腕によるもの
あって、運だけでは決してミリオンを出せるものではない。

ただ、運の良い本、悪い本というものは実際にあるらしい。
たとえば、運の良い本は広告代理店から枠が突然あいたので利用し
いかと連絡がくる。
運が悪い本は諸事情が重なって予定していた広告が打てないといっ
ことが続く。

そんな植木社長の講演のなかに、「私の履歴書」(日本経済新聞
を連載初日で見定める法というのがあった。
おもしろい話なら絶対見逃したくない。つまらない話ならなるべく
き合いたくないのが心情であり、出版界を生き抜いてこられた方に
って本の見きわめはサバイバルのスキルといえる。
果たしてどんなすごいスキルかと思いきや、真理はとてもシンプル
ものだった。

連載初日の紙面を見渡して「漢字が多い」のは読まない植木社長
漢字が多いということは、人の名前や肩書き、地名などが多い証拠
書き出し初日から漢字が多いということは、起承転結の「起」が紋
り型の書き出しになっているため、人名・肩書き・地名が多くなる

・真理はひらがな
・一流人はわかりやすい
・二流人はむずかしい

というポリシーの植木社長としては、漢字だらけの書き出しは読む
値しないわけだ。

そういう点で圧巻だった書き手が二人いる、と植木社長。
ひとりめは藤沢秀行氏。
囲碁の棋聖戦6連覇、史上最年長タイトル保持など、昭和を代表する棋
士である。
抜群におもしろい「履歴書」を書かれたそうだが、書き出しの一行
から度肝を抜かれた。それは、
「わたしには何人の兄弟がいるかわからない」というもの。

え、どういうこと?となる。
読んでいくと、父にはお妾さんが何人もいて兄弟姉妹が多くて人数
よく分からない状況で育ったことがわかる。
短文だが強烈な書き出しである。

作家の渡辺淳一氏もおもしろかった、と植木社長。
こんな激しい告白をする姿に、「一流人は飾らない」と衝撃を受け
そうだ。
「惚れた女性のマンションのチェーンを切断して侵入した」

そういう文章を読みたい。
これは「漢字よりひらがなを多く」といった文章テクニックを語っ
おられるのではない。
漢字の多い生き方をしてはいないか?
自分を飾らずに生きたら、おのずとそれはひらがなが多い人生にな
のではないか。
そんなことを植木社長はおっしゃりたかったのではなかろうか。

型をまったく知らない「形無し」人間も問題だが、型にこだわっ
ばかりいる「紋切り型」人間にもこまったものである。
自分なりに考えて、素直に正直に生きるとそれは往々にして「型破り」
であることが多いが、本人はいたって真剣で、型などこれっぽっち
意識していないものだろう。

あすはその日のセミナーの様子をべつの角度から書いてみたい。