その他

続・類いまれなる積読家(つんどくか)

2020 東京五輪のチケット販売は今日までだが、私は昨夜、購入申込
みをした。キャンセルはできないので当選確率を予測して買わねば
らず、少々むずかしい決断だった。開会式のほか、水泳、柔道、空手、
野球、サッカー、体操など、日本勢にメダルの期待がかかる種目を
んでいったら、あっさり100万円を超えてしまった。当選後のリセール
はできるとはいうものの、100万円のチケットを買う度胸はないので、
その半分ぐらいになるよう調整した。
抽選結果の発表は6月20日で、支払いは6月20日から7月2日までの間に
行う必要がある。

★東京五輪チケット → https://tokyo2020.org/jp/games/ticket/

さて、昨日の読書談義のつづき。

「本を何冊読む」という目標は、本が好きではない人にとっては有
かもしれないが、本好きがそれをやると、本が嫌いになる可能性が
る。私がそう言うとA社長がかみついた。
「え?武沢さんだって読書量の目標を掲げていたじゃないですか?
は違うとおっしゃるのですか?」
言い寄られた私は防戦せざるを得ない。以下、防戦の弁である。

私も「年に100冊読む」「本を一冊10分で読む」などの目標を掲げた
ことがあるし、速読のレッスンを受けてコツをつかんだりもした。
本は「たくさん」「早く」「大量に」読む必要があると信じ、そう
るように努力してきた。

だが最近考えを改めた。きっかけは一冊の本である。『増補 遅読の
すすめ』(山村修著、筑摩書房)という。著者は書評家、随筆家で
子どものころから亡くなるまでずっと本と関わってこられた方だ。

『遅読のすすめ』を読んで感じたことは、本と自分の関係がどの
うなスタンスなのかをまず自覚することである。本とはなにか、本
何を期待するのか、ということだ。本をたくさん読んで、そのエッ
ンスを吸収しながら自分の本や論文を書いたり、講演して歩く職業
読書人なら速読は武器になる。だが、本を肥やしにして成長したり
本とふれあう時間で豊かさを感じたい人にとっては、遅読こそが大
だと著者はいう。

本のジャンルや内容によっても読書法は変えるべきだろう。ビジ
ス書のなかには作者の骨太な精神を汲み取りながら読むものもある
だが多くの場合は新しい知識や情報を得るために読む。作者もそれ
承知していて、なるべく簡潔に結論を書こうと努力する。
純粋に中味が役立つかどうか、事例が分かりやすいかどうか、文章
読みやすいかどうか、などで本が評価され売れ行きも決まる。

ビジネス書以外の文芸書はそうではない。文章を味わい、行間に
るものを感じながら読むものが多い。こうした本を読むときには、
能な限り、ゆっくり読むことが重要だ。速読技術ではタブーとされ
いる「もどって読む」ことや、前の箇所を「参照しながら読む」こ
や、「途中で本を閉じてゆっくり考える」などをする。それらは速
の指導者は禁止していることだ。

速読技術が中途半端なのに、そのまま実践すると単なる粗読にな
こともある。
粗読とは一冊の本に時間をかけることは罪であるという意識から、
雑に本を読み飛ばすことをいう。
いいとこ取りして、なるべく無駄なところは読まないように努力する。
本を読みながら、実は読まない努力をしているわけだ。結果的に得
れるものは骨と皮だけで、肉と栄養は取りこぼしてしまう。そうい
読書を積み上げて10冊読もうが100冊読もうが身にはならない

本の「乱買」(らんばい)の弊害もある。所得が増えると相対的
本の値段は安くなる。A社長みたく「毎月50冊買ったって、せいぜい
10万円でしょ」となる。安いから買っておいて積読(つんどく)して
も腹は痛まないのだろう。果たしてそれで、作者や本というものに
意が払えるだろうか。

私がそんなことを申し上げると、A社長はしんみりとこう言った
「積読家(つんどくか)と自慢して歩くのはやめます。本を衝動買
するのも制限します。遅読の本も読んでみます。読書にも速読と遅
があって使い分けるように、人生を生きるスピードも高速と低速の使
い分けが必要なのかもしれません。お話しをうかがっていてそう思
ました」

A社長は45歳。まだまだ高速で走る年齢だろうが、きっとどこかを境
に低速で生きることを選ぶのかもしれない。

★遅読のすすめ → https://amzn.to/2K5iL3E