その他

船橋屋、25年前の壮絶な働き方改革

ソフトバンクは2020年4月から社員の健康増進のため就業時間中の喫煙を全面的に禁止する。ちょっと一服、という時間が許されない。
もちろん外出先や移動中でも同様だ。健康のため、とはいうが、本気で働き方改革を進めるので、社員も本気で仕事してくれ、という孫社長のメッセージだと思う。

仕事中にアダルトサイトを閲覧していた大学職員が停職6ヶ月の懲戒処分を受けた。業務用のパソコンから毎日1~3時間、2年間の累計で1220時間もアダルト動画を見ていたという。この大学では別の男性も同様の理由で処分された前歴があり、こうした風土が組織にできあがっているのかもしれない。

「うちの場合はタバコやアダルトではなく音楽です」とA社長。
勤務中に呼びかけても返事をしない社員がいるのでよくみたらイヤホンをしながら仕事をしている。音楽を聴いてる方が仕事がはかどると言われたら、私としてもむげに禁止できない、とA社長。

音楽やラジオに関して弊社ではNGだが、会社によっては許可しているところもあるだろう。少なくとも周囲から呼ばれているのに気づかない状況は許してはならない。

では勤務時間中に居眠りをするというのはどうか。馬券を買いに行くというのはどうか。勤務時間をきりあげて飲みに行く、というのはどうか。それらが皆、まかり通っていた会社があった。今でこそ、業界を代表する名門企業だが、新社長が就任する25年前はそんな会社だったという。

経営理念は『くず餅ひと筋真っ直ぐに』。
東京の亀戸天神前に「船橋屋」というくず餅専門店がある。店舗は都内を中心に30店舗ほどあり、ここのくず餅が好物だという方も多いだろう。私も大好きだ。

創業は江戸後期の文化2年(1805年)というから200年以上の歴史がある。現在の従業員数は180名。くず餅だけでこれだけ経営が続くこともすごいが、更に驚くのはこの会社に応募する学生の数である。
ピーク時にはなんと17,000人がエントリーしたこともあるというから東証一部上場企業でもまっ青である。

しかし8代目社長の渡辺雅司氏が入社した25年前の船橋屋は、いまの姿からは想像もつかない「老舗病」を抱えていた。
25年前の1993年といえば、バブルも崩壊し日本経済は深刻な不況に突入していた。しかし船橋屋の社員や職人には危機感がまったくなく、すぐまた好景気がやってくると楽観していた。
仕事がヒマなので職人たちは仕事時間中にもかかわらず競馬に行き、夕方4時頃から宴会がはじまり、深酒した社員は翌日居眠りするという惨たんたる有様だった。

組織のたががゆるみ、社内は無法地帯。
仕組みやルールといったものは存在せず、すべてベテラン職人による現場判断。
そんな会社に社長の息子として入社した渡辺社長はまず、企業としてのルールや仕組みづくりから着手した。職人たちが好き勝手に振る舞えない環境をつくり始めたのだ。品質に関しては「ISO9001」の取得を目標に掲げて、その基準を満たすことを錦の御旗とした。

しかし職人を中心に猛反発が起きた。
これまで楽しくやってきたところに突然、社長の息子がやってきて不都合なことを次々にやりだすわけで、面白くない。
集団辞職も辞さずと訴える職人。だが新社長も折れない。その結果、8割の社員が辞めていった。創業以来200年、一度も解雇はしてこなかった船橋屋。この社内改革でも会社都合によるリストラは行わず、職人たちは「このバカ息子が!」などと罵りながら自主的に辞めていった。

だがもしあのとき社長が妥協していたら、船橋屋といえども今、時代に取り残されて消滅していたかもしれない。

参考:https://bizhint.jp/report/230342