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名案は捨てろ

出典は忘れてしまったが、ドラッカーが何かの本で「名案は捨てろ」
と書いていたように記憶している。
「名案を捨てろ」とはいかにもドラッカーらしい名言だ。
名案か愚案かは机の上では分からない。名案も愚案もひとつの案であ
る。まずは手元にたくさんの案が存在することが何よりも大切だ。

「今からアイデア会議を始める。最初にポストイットに業績向上に
つながりそうなアイデアを各自が5個ずつ書いて欲しい。制限時間は5
分。よ~い、始め!」
場所はアプリ開発のY社で出席者は8人。こうしたアイデア会議はこれ
が初開催だという。

別件でY社を訪問していた私は、興味があって会議を傍聴していた。
一部の幹部はスラスラと書き始めたが、大半は苦戦の様子。私の近く
にいた年配女性は経理担当で、アイデアが出せずに困っていた。ソッ
とのぞいてみたら1個しか書いていない。

あっという間に5分が経過した。多くの社員が1~2個しか書けていな
いようだ。困った顔でY社長が私を向いた。
「どうしたものでしょう」という目である。

いきなり「アイデアを5個書け」と言われも困るだろう。前もって議
題を伝え、意見を持ち寄るようにすれば良かったのに。今となっては
遅いので、こんな提案をした。

「皆さん、良いアイデアを書こうと思っていませんか。良いか悪い
かはあとで選別します。むしろ最初は、ダメそうなアイデアやバカげ
ていて笑われそうなアイデアを5個書いてみませんか。本当に良いアイ
デアはそうした案のなかに潜んでいることがありますから」

それだったら書けるかも、という気楽さがたくさんのアイデアにつ
ながった。そのダメそうなアイデアのなかに「有名人を広告塔にする」
というのがあった。

「お金もかかるし、だめですよね~」と発表した本人自ら案を引っ
込めようとした。
そのとき、「それ面白いかも」と発言したのがS部長だった。
以前、タレント広告を検討したことがあるS部長はタレントごとのCMギ
ャラを調べていた。結局そのときはボツ企画になったが、タレントや
芸人、スポーツ選手のなかで知名度の高さの割にギャラで安い人をた
くさん見つけていた。

その当時、マツコ・デラックスさんが今ほどの人気ではなかった。
イメージキャラクターをお願いしたときの値段はY社にも手が届くもの
だったという。ネットの評判も「時間と約束を守る人」「ギャラに文
句を言わない人」「好感度が高い」「数字をもっている」などの高評
価ばかりだった。
他にも元日本代表のスポーツ選手やお笑い芸人のなかにも有力なタレ
ントを何人も見つけている。

私は途中退席したが、この日の会議で「著名人活用」「著名人タイ
アップ」の案は最後まで有力案として残ったそうだ。
アイデアを出すときは「ダメなアイデアはない」と考えることだ。
一見ダメそうにみえるアイデアの少し脇や向こう側に優れたアイデア
が潜んでいる。
だったら、すすんでダメそうな案を集めてみるのも悪くない。