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精神の感激とは

「士は己を知るもののために死す」は史記にある言葉だが、人は自
分を高く評価し、期待を寄せてくれる人のためならどれだけでもがん
ばることができる。
勝海舟も江戸の市中をぶらつきながら任侠や博徒の親分子分の関係を
観察し、「精神の感激」こそが人と人の関係をつくるうえでもっとも
大切なものだと自伝『氷川清和』に書いた。

人と人の関係は目に見えないものでつながったり途切れたりしてい
る。「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉はもともと江戸の遊郭の
言葉。遊女とお客の関係で使われていたものが一般に普及していった
という。

「世の中100%、金の切れ目が縁の切れ目でしょ」と考えている人も
いるようだが、私は100%そうだとは思わない。
なぜなら、子どもの頃の親友だとか若いころの恋人にはお金の要素が
からんでいないからである。
大人になるにつれ、友だちや恋人選びも金の有無がからむようになる
のは致し方ないことでもある。

勝海舟がいう「精神の尊敬」とはどのようなことか。
どういう状況で人は相手に感激するのかを考えてみた。まず、自分よ
り劣った相手に感激することはなく、何かにおいて突出して優れたも
のがあると認めたとき、人は感激する。

それは次のような要素の集合体ではないだろうか。

・知識、技術、経験、知恵、コネ、などで叶わない
・思想、哲学、ビジョン、野望などにおいてこの人に叶わない
・外見や体格の格好良さ、ファッションや持ち物のセンスで叶わない
・体力、気力、情熱などで叶わない
・優しさ、強さ、人柄、魅力、愛敬などで叶わない
・経済力(稼ぐ力、周囲に稼がせる力、資産)で叶わない
・責任感と覚悟(最後に自分が一切の尻ぬぐいをする)で叶わない
・正義感と勇気(敵だらけでも義があれば一人でも戦う)で叶わない
・期待力(部下や相手に期待する力、任せる力、頼る力、信頼する力)
・血筋の良さ(名家の血筋、○○さんのご子息・ご令嬢)で叶わない

部下を感激させるようなリーダーになるためにはこれらの要素の幾
つかをもてばよい。
とりわけ何が大切かと聞かれたら、経営者には「経済力」が大切だろ
う。この人についていけば食える、と予感させること。すくなくとも
この人の近くにいれば、食いはぐれるようなことはないと相手に期待
させる能力が求められる。

そのための一番説得力あるものは「過去の実績」だ。
実績ほど強い説得材料はない。だが実績がまだない場合は計画をもつ
ことだ。こういう目標に向かってこういう計画で動いていく、という
明確な青写真があれば、実績がなくても付いてくる人がいる。

金はない。実績もない。目標も計画もない。
そんなリーダーに人が集まってきて力を貸してくれる可能性は皆無と
いえよう。