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続・熟年起業家 S 氏の懊悩

<先週木曜日号のつづき>

「武沢さん。人間、何歳になっても異性への興味は失せるもんじゃありませんね」。
68歳になる S氏はそうつぶやいた。
Wish-List 書き出しの20分作業を終えてのことである。
きっと異性に関する Wish があったのだろう。

「良かったですね」と笑う私に S 氏は、「年齢とともに衰えるものが性欲だと思っていましたが、なくならないものです」と苦笑する
会場が男性ばかりで、ホンネを話しやすいのだろう。

私は申し上げた。
「たぶん、何歳になっても欲望はなくならないと思います。ただし、欲望と希望は別ものです」
「え?」
「欲望は自然になくなるものではありませんが、希望はなくなっていきます」
「・・・」
「希望の不在は老化を早めますよ」
「最近、家内に老けたと言われることが多くて、ドキッとします」

前向きな希望をもってもらうために、「起業計画」を作っていただいた。
3×3=9マスのマンダラチャートを使う。
ど真ん中の中心角にビジョンを書いていただいた。
ここでのビジョンは、次のように書く。

「私は起業を成功させ、西暦○○○○年○月○日までに月商(月収)○○万円を達成する」

次に周囲の8マスの質問に回答していく。

1.私の売りものは何か
強みを活かした、独自性の高い製品・サービスをメニュー化する
値段を決める(値決めが経営)

2.主力客は誰か
どこにいるか
どのような困りごとやニーズがあるか

3.同業者、類似業者はどこか
それらと我社の違いはどこにあるか(なるべく具体的・科学的に)

4.我社の存在を見込客に知ってもらうために何をするか何ができるか

5.見込客を顧客にするためにどのような手順を踏むか

6.顧客に継続購入してもらったり、紹介を得るために何をするか

7.半年後、1年後に期待できる業績数字は客数、客単価、売上高、粗利益、経費、営業利益、資金など

8.その他、大切なことは(ネット活用、内部管理、自己管理、採用教育など)

質問の主旨説明をしたあと、30分で書き出していただいた。
始まる前までは、「9分9厘失敗する」「先輩はみんな失敗した」「きっと自分も失敗する」・・・。
失敗を連呼していた S 氏の表情があきらかに引き締まってきた。
別人の目付きである。

「いかがですか?」と水を向けると S 氏は、「ここまで具体的に考えておけば、動き方も変わってきそうです」と言う。
ただ、それでもまだ迷っている、という。
本来なら長年の経験を活かしてコンピュータ言語(コボル・フォートラン)をつかう仕事をしたい。
だが、主役の座を奪われた開発言語であり、どの程度ニーズがあるか分からない。
いっそのこと、高齢者用のパソコン教室かスマホ教室でもやろうかという思いもあるという。

後は結論が出るまで考えること。
腕組みして考えていては堂々巡りするだけなので、こうした書式をつかって記録を残しながら考える
決断を引き延ばしていると本当に決断できなくなってしまうので、結論を出す期限だけは前もって決めておく。
そんな提案をした。

「わかりました。今日教えていただいたやり方で、自分なりに考え、やってみます」と帰って行かれた。

希望と計画さえあれば、何歳からだって起業はできるし成功もできる。
起業をためらっていた S 氏とは次回、経営者セミナーか経営計画合宿でお会いしたいと願っている。