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主義以上に価値あるもの

Rewrite:2014年3月22日(土)

まずは、岩波文庫「アミエルの日記」の一節を引用。

『人生の行為に於いて、習慣は主義以上の価値がある。何故かといふと、習慣は生きた主義であり、肉となり、本能となった主義である。ある者の主義を改造するのは何でもない。それは書物の題名を変えるほどのことに過ぎぬ。新しい習慣を学ぶことが万事である』

このアミエルの言葉を拡大解釈していけば、経営理念や将来のビジョンよりも、今の習慣の方が大切である、ということだ。さらにアミエルは言う。

『我々の主義なるものは恐らく我々の欠陥に対する一種知らずしらずの弁護に他ならないであろう。我々の目から自分の未練をもつ罪業を隠蔽することを目的とする大見栄に他ならないであろう』

ことばを使って我社の理想を語ることは簡単だ。作文能力と想像力を身につければ、だれでも理想とする会社像を語ることはできる。しかし、そうした理想や主義、理念といったものは、自分や我社が今、未完成品であることの弁護に使われる大見栄だ、というのだ。19世紀末を生きた哲学者・アミエルの厳しい警句だ。

平たく言えば、その人の日常の行いを見ればすべてが判る、という意味だ。学問とは、日常の習慣を変えてこそ本物であり、そのあたりは、知行合一を追求した陽明学にも相通ずるものがありそうだ。

私にとって、アミエルの言葉はあまりに耳が痛い。自分の生活習慣や勤務習慣は決して誇れるものではない。恐ろしくて言えないほどだ。しかし、あえてここで取りあげたのは、会社の成長を分けるのも習慣にあると思うからだ。成長している会社と停滞している会社とは、何が違うのかといえば、決して経営理念や将来ビジョンの差ではなく、習慣の差だと言える。

学ぶ姿勢、という点を見ても月とスッポンほどの開きがある。
成長している会社は、社長自身が謙虚に学び続けている。社内セミナーなどがあれば、社長は最前列でメモをとる。もちろん礼で始まり、礼で終わる。お互いに心地よい緊張感を発しながら、啓発しあうことができる。当然こうした会社は社員にも社長と同じ習慣がしつけとなって伝染する。停滞している会社には残念ながらこうした緊張感がない。社員研修には顔を出さないことにしている社長もいる。大企業ならいざ知らず、中小企業でこれをやっていては人は育たない。

よい習慣を作ることが個人にも企業にも一番大事なことだ。良い習慣、良いしつけは、ことばで指示して済む問題ではない。解るまで何度も何度も反復して言い続けることと、実践で示し続けることである。

それこそ、主義以上に価値がある。