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頭越しの組織運営

某日、ある製造業を訪問した際、最近会社を継いだばかりの K 社長(40)に工場内を案内していただいた。そのとき、ある機械の裏側通路が汚いことを社長が指摘すると、担当の若い社員が「申し訳ありません。すぐに掃除します」と返事した。

翌朝のことである。オフィスで仕事をしていた私のもとに K 社長からメールが届いた。

「武沢先生、昨日指摘したあの通路がまだ汚いままです」とある。どうやら若い社員が掃除をしていると、ベテラン工場長がそれをやめさせたらしい。
「納期が迫っているのだからフル稼働で生産に励んでくれ」というのが工場長の考えだという。不満に思った社長は、工場長を呼び出した。

「私が指示したことをやめさせるとはどういうことですか?」と問いただすと、60代半ばの工場長はこう言った。

「社長こそ、現場の責任者を差し置いて頭越しに部下に指示を出すとはどういうことですか。工場の責任者は私ですから、私が知らないことが工場で起きていては困るのです」と不満顔。

社長と工場長による主導権争いである。

「こういう場合、どう判断すればよいのでしょう」と社長のメールにあった。私はこう返答した。

・・・
社長は間違っていません。
組織運営に関して迷っておられること自体が間違っているといえますが、こと行為においては何も間違ってはいません。自信をもってください。
私が思うに、企業運営においては頭越しに指示命令を出すことは当然ありうることで、そのことにめくじらを立てるような管理職を許しておいてはいけません。
少なくとも私が知っている良い会社は、頻繁に頭越しの指示・命令が行われており、それによって誰かのメンツがつぶれるとか、秩序が混乱するなどの問題が起きているケースはありません。これからも自信をもって頭越し命令を実施し、管理職にもそのことを周知させておくべきでしょう。

・・・

すると後日、K 社長から感謝のメッセージとともにこんな素朴な質問が届いた。

「それではいったい、管理職の役割りとは何でしょうか?」

私は返答をした。
部下を管理・監督・指導し、組織目標を達成する責任者が管理職です。
それ以上でも以下でもありません。社長や他部門からの治外法権(外の誰からも支配を受けない特権)を許されているものでもありません。
事前・事後の報告があれば、他部門からの命令・指示・要請などで部下が動くこともあるのです。そういったことをきちんと教育していってください、と。

じつは昨日、偶然にもセコムのホームページで「頭越しの組織運営」を奨励しているのを発見し、その URL を K 社長にメールした。
それがこちらのホームページである。

→ https://www.secom.co.jp/recruit/01/personnel/org.html

セコムのみならず、本来、企業とはこういうダイナミックさがなければすぐに硬直してしまう。ましてや中小企業で組織のタテマエ論がまかり通っているようでは問題外だと思う。