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ジャイアンツ沖縄キャンプにて

シーズンインを一月半後に控えたプロ野球。キャンプ中盤戦のこの時期は、一軍の主力選手にとっては徐々に本番モードに向けて調子を上げていく大事な調整段階。
若手選手にとっては基礎体力づくりとともに、技術力向上、それに首脳陣へのアピールが問われる本番のような日々だろう。毎日のグランドが戦場でもある。ここで監督やコーチに評価され、試合で使ってもらい、試合でも結果を出して一軍選手、レギュラー選手、スター選手への階段を駈けのぼることを夢みる。

それができないと、試合で使ってもらえず二軍・三軍落ち。そこでも結果がでなければ、シーズンオフにクビを宣告させる。
今年の暮れには億万長者になれるのか、それとも転職活動を強いられるのか。毎日が天国と地獄の狭間にいる気持ちだろう。

若手選手だけが大変なのではない。昨年あまり活躍できなかった中堅やベテランにとってもこの時期は重要だ。今年も活躍できなければ二軍落ちか大幅な減俸が待っている。突然、他チームへの移籍を言いわたされ、三日後には引っ越しせねばならないかもしれない。
何げないキャッチボール、バッティング練習、守備練習、走力練習、柔軟体操、すべてが監督コーチによってチェックされている。

2月18日(土)沖縄。サムスンとの練習試合で大敗を喫した読売ジャイアンツの高橋由伸監督は、3人の選手に居残り練習を課した。
そのなかに坂本選手がいた。練習では良い当たりをしているが、紅白戦や練習試合ではあまり良い振りができていなかったからだ。
バッティングケージに高橋監督と村田ヘッドコーチが付きっきりになって坂本選手のバッティング練習を見ていた。最初は入念に流し打ちの練習。ミートの感覚をつかむと、徐々にセンター返し、そしてレフト方向に強い打球を打ち始めた。その間、おおよそ30分間。時々、グリップスプレーを吹きかけるが、休憩は皆無で藤井バッティング投手が投げこむ玉を打ち返す坂本。
30分を超えたあたりからは、レフト方向にホームランを連発するようになった。とどめは左中間の一番深いところへの特大ホームラン。
高橋監督の「ナーイス」という肉声がネット裏にいた私にまで届く。

その横で、マシン相手に黙々と打撃練習していたのが重信選手。
大敗を喫した練習試合では、辛うじて最終打席でセンター返しのヒットを打ったものの、単に当てるだけで、バットを振り切っていないのが気に入らない。

練習はウソをつかない、というが練習で結果を出した選手の多くは試合でも結果を出す。この日、居残り練習をした坂本、重信、小林の三選手は翌日(日曜日)の練習試合で結果を出し、スポーツ新聞をにぎわせる活躍をした。

どろんこになって、日が沈むまで目の色を変えてボールを追いかける野球選手の生の姿を見るにはキャンプ地を訪れるのがいい。
そう思って今年、はじめて沖縄キャンプにやってきた。

「寒い」。今月上旬には桜まつりがあった沖縄といえども、日が当たらないと寒い。昼間は汗ばむほど暑かったが、午後4時を回ると風も出てきて寒い。
名古屋から持参したジャケットとコートをホテルに置いてきたことを後悔する。売店でジャイアンツアロハを6,800円で買ったが、あまり役に立たないほど寒い。

坂本、重信、小林の居残り練習は終わる気配がなかったが、時計が4時45分になったのをみて、「お先に」と言い残し(もちろんグランドの選手には聞こえていない)ホテルに戻ることにした。
当初の予定では選手が帰るまでグランドに残り、そのあとは選手が泊まるホテルで待ち構えてサインをもらうつもりだったが、風邪をひいては意味がない。今回、それは断念した。

翌日の日曜日もフライトギリギリの時刻まで韓国代表チームとジャイアンツの練習試合を見とどけた。小林選手がつくったチャンスを重信選手がきっちりバントで送り、三番坂本選手がタイムリー打を放って巨人が勝利した。フライトにはギリギリ時刻でタクシーもいない。
やってきたタクシーに相乗りさせてもらって空港に行き、名古屋の自宅には夕食時刻に間に合った。ファン冥利に尽きる夢のような二日間であった。