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続・人生で最も大切な「能力」

75年以上かけて人の成功と失敗、幸福と不幸を分ける要因を研究している「ハーバード成人発達研究」。四代目所長のロバート・ウォールディンガー氏が TED でスピーチした。

氏によって、つまるところは「人間関係に尽きる」という研究結果が述べられたとき、思わず居ずまいを正した。
成功と失敗、幸福と不幸を分けるのは、財力や健康力、人脈力、家庭力などの総計だと思っていた私にとって、ちょっとした衝撃でもあった。

所長の話を聞いてみよう。

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「人間関係に尽きる」という結論の理由の第一に、周りとの良好なつながりは健康に本当に良いという事です。家族や友達・コミュニティとよく繋がっている人ほど幸せで身体的に健康であることがわかりました。良好なつながりの少ない人より長生きするという事も分かりました。孤独は害となり、命取りにもなるという研究結果が出たのです。
孤立化を甘んじて受け、生活している人は、あまり幸せに感じていないのです。孤独は中年以降の健康的衰えが早く、脳機能の減退も早まります。悲しい現実ですが、これから先、いつでもアメリカ人の2割以上は「孤独だ」と回答するでしょう。群衆の中や、結婚生活の中でも「孤独」を感じることがあります。つまり、ここで重大な事は、友人の数だけがものをいうのではなく、生涯を共にする相手の有無でもないのです。重要なのは身近な人達との関係の質なのです。
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所長の話は、アドラー心理学でいうところの「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」と符合する。
アドラーは、お金の悩みも健康の悩みもすべて人間関係の悩みだと言い切った。たとえばお金がないと本当に辛い。その理由をとことん突きつめると、誰かに迷惑をかけたり不義理を働くという心痛だ。
大家さんに家賃を払えず、クレジット会社への支払いも滞る。家族や親にも経済的責任を果たせない。そのことが自分を苦しめるわけだ。
もし無人島やジャングルで単身生活していれば、お金の悩みはもちろん、老い、病の悩みすら解消される可能性がある。
社会生活とは人間関係生活なのだということをあらためて実感する

したがって、アドラー心理学の結論も「対人関係の悩みを解決できれば、良い人生を送れる」というものであり、そのための考え方や生き方を教えている。その神髄は「他者は敵でなく、仲間である」という考えをもつことが最大のポイントであるとアドラー。

「他者は仲間」というつもりで Facebook や Twitterを利用すれば、ネットは幸せな気分になれる場所だ。
「他者は敵」と思っていたら、Facebook や Twitter は嫌なやつら、どうでもいい奴らのたまり場に見えてくる。

ちょっと脱線したので、もう一度所長の発言に戻ろう。

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争いの真っただ中で暮らすのは健康に悪い事が分かっています。例えば愛情が薄く、喧嘩の多い結婚は健康に悪影響を及ぼし、恐らく離婚より悪いでしょう。愛情のある良い関係は人を保護します。
また、中年のコレステロール値などとは関連なく、どの様な老年を迎えるかは人間関係の満足度で予測される事も分かりました。50才で最も幸せな人間関係にいた人が80才になっても一番健康だったのです。
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良好な人間関係は健康にも良い。良好な人間関係はふところにも優しい。お金がなくても名誉や名声がなくても幸せに生きていくことができる。その鍵は人間関係にある。
『人間失格』の主人公のように人間関係が稚拙のあまり、周囲の状況や出会いに翻弄され、やがて本人の意思とは関係ない渦のなかに飲み込まれていってしまう人生はおくりたくない。

<明日、この稿最終回>