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裸の王様と・・・

アンデルセン童話『裸の王様』のストーリーはこうだ。

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ある国の王様はとてもオシャレで新しい服が大好きだ。ある日、二人組のあやしい男が「仕立て屋」という触れ込みでやってきた。
彼らは王にこういった「私たちはバカの目には見えない、不思議な布地でできた衣装をつくることができます」

新しもの好きの王様は大喜びした。大金を支払って彼らに新しい衣装を注文した。さっそく彼らはお城の一室を借りて仕事にとりかかった。

出来映えが気になる王様は、しばしば役人を視察にやった。仕立て屋たちが忙しく縫ったり切ったりしている。「バカには見えない布地」は役人の目にはまったく見えず、困惑した。だけど王さまには「仕事は順調に進んでおります」と報告した。バカだと思われたくなかったからだ。

王様がじきじき仕事場に行くとその布地は、王様の目にも見えない。
うろたえるが、家来たちには見えた布が自分に見えないとは言えず、布地の出来栄えを大声で賞賛した。周囲の家来も衣装を褒めるしかない。いよいよ、王さまの新しい衣装は完成し、お披露目のパレードを開催することになった。見えない衣装を身にまとい、大通りを行進する。集まった国民もバカと思われるのをはばかり、大声援で王の衣装を誉めそやす。

その中で、沿道にいた一人の小さな子供が、「王様は裸だ! 王様は裸だよ! 」と叫び、群衆はざわめいた。
「裸か?」「裸じゃないのか?」ざわめきは広がり、ついに皆が「裸だ!」「王さまは、はだかだ」と叫びだすなか、王さまのパレードは続くのだった。

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こんなユーモラスな童話だが、昨日観た映画はとても深刻な「裸の王様」だった。いや、私たちは大なり小なり「裸の王様」なのかもしれない。公開中の映画『葛城事件』をご覧になる予定の方はここから先はネタバレになるのでご注意あれ。

親父のあとを継いでまじめに金物店を経営した。家族の幸せを願って家を建て、庭にみかんの木を植えた。子供を私立の学校に入れるために一生懸命勉強もおしえた。すべてが順風満帆にみえた。

長男はまじめでよく勉強ができたので長男のことは周囲に自慢した。だが次男はすぐにサボるので失望し、徐々に見放した。「あいつがあんな風になるのは、お前が甘やかすからだ」と大声で妻を叱った。

家族を思う気持ちが高じ、抑圧的になっていく夫。思い通りにならないと妻や子をなぐるようになった。父親に好かれていたまじめな長男は勤務先でリストラにあった。すでに結婚して子供もいたが仕事がなくなったことを誰にもいえず、毎朝決まった時刻に家をでた。
ある日、親父の金物店にフラリと立ちよる長男。「親父、おれ金物屋を継ぐよ」と言った。
「ダメだダメだ」と父がいった。父の店もうまくいっていないようだ。

何ヶ月かしたころ、長男はビルから飛び降り自殺した。妻はショックのあまり、通夜の席で他愛のない話をくり返して笑い出す。心の病にかかっていた。
浪人生だった次男は兄と父を見返してやりたいと思っていた。「いつか一発逆転してやる」が口ぐせだった。
ある日、次男は連続通り魔殺人事件をおこした。判決の一年後、死刑が執行された。
誰もいなくなってしまった家で「俺がいったい何をした。俺だって被害者だよ」と叫び、みかんの木で首をくくる主人公。だが・・・。

三浦友和主演の救いのない映画を観てきた。

良かれと思ってやっていることが空回りする。何もしないでいることが周囲から冷たいと感じられる。どこにでもいそうな善良そうな家庭が忌まわしい事件を起こす。幸せと不幸せは紙一重のところにあると感じた。いたたまれない「裸の王様」ではないか。

以前なら絶対観なかった映画だと思う。だが、楽しいばかりが映画じゃない。ハッピーエンドだけが映画でもない。
重くて切なく、笑えるところがどこにもないような映画のなかにも名作とよべる作品はある。この映画はそんな一本かもしれない。

★葛城事件
http://katsuragi-jiken.com/