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コンサルタントが苦労するのは自分自身の営業

それまで順調だった代理店経営がうまくいかなくなり、会社も個人も借金だけがどんどんかさんでいった。そんな折り、何度も金を無心させてもらっていた親父が急逝した。仕事にも家族にも不幸が同時に襲う。踏んだり蹴ったりの厄年というのは本当にあるものだ。武沢信行41才(後厄)の春である。周囲の桜が妙にキレイだったが、それを楽しむ余裕はなく、心は虚ろだった。

親父の葬儀が済むと、名古屋から大垣まで毎日通った。車で小一時間かかる。自営業をやっていた親父の会社で残務整理をするためだった。未払いの負債はないか、未回収の売上はないか、換金できる在庫はないか、経理の事務員さんとふたりで一週間がかりでオフィスをきれいに片づけた。

それは長男である自分の責任感でやっていたのではなく、淡い期待で行っていた。莫大な保険証券が引き出しの中から出てくることや、金庫から隠し通帳か金塊でも出てくることに一縷の望みを託していたのだった。我ながら自分の心の貧しさを感じながらもどうにもならない。結果は失望だった。むしろ負債の方が大きくなってしまった。金を無心していた親父も内情は厳しかったのだな、と気の毒に思えた。その夜、家族で話し合って財産放棄することにした。

「信行、これからコンサルタントをやるって聞いたけど、これからは武沢家全体の大黒柱になるわけよ。ちゃんとやっていけるの?」

母は心配そうだった。横にいる妻も不安げだった。三人の子どもの無邪気な笑い声だけが朗らかだった。

母の問いかけに対して長男として、気丈にふるまうしかない。

「なあに、もし昼間のコンサルタントだけでやっていかれないと分かれば、夜間警備員や24時間営業のコンビニ店員をやってでも時間をお金に換えるさ。時給800円の仕事を300時間やれば24万円になるわけだし、コンサルタントの仕事もゼロとは思えないから大丈夫さ。この身体が資本さ」と胸をたたいた。

すると不思議なことがおきた。

翌週、一件のコンサルティングの仕事を受注したのだ。岐阜のガソリンスタンドオーナーが経営計画書を作りたいのでサポート指導してくれという。後輩の S 君の紹介だった。S君は販促コンサルタントとして数年前に開業し、人脈も豊富で仕事は山ほど抱えていた。私からみてS君はどんな企業にも懐深く食い込んでいける天才営業マンだった。私を気づかって勝手に営業してくれていたのだ。

ガソリンスタンドの経営計画指導の仕事は月額5万円の6カ月契約だった。私には支払うべきお金がたくさん待っていたので、「着手料」という名目で先に3カ月分を頂戴した。当然、それ一本では家族を養っていけない。同様の仕事が何本も必要になる。だが、どうやって自分自身を企業に売り込んでいくべきか、考えあぐねた。S 君のような天才的な人間関係構築力は自分にはない。

「他にも顧問先になってくれるところはないかな」と S 君に電話するしかなかった。こんな都合のよいお願いをして嫌われるのではないかと思ったが、S 君は「まかせといてくださいよ」と快く引きうけてくれた。

あとで聞いた話だが、S 君はこんな営業をしてくれていたらしい。

「経営計画の専門家としてとにかく凄い人がいるんです。武沢さんという方でね、以前の勤務先でこんな働きをされていた方で・・・」

相手の経営者は、それを聞いておどろく。「ぜひ武沢さんに会わせいただけませんか。できればうちのような会社でも仕事をお受け願えればありがたいのですが・・・」

するとS君は、「今ならまだ空席があると聞いていますからすぐに予約をいれてみます。いずれ順番待ちになるコンサルタントですから、あなたはラッキーだと思いますよ」

一週間後、私の目の前にあらわれたのは姉弟社長だった。姉も弟もそれぞれ別会社の社長。二人とも経営計画書を作りたいと頭を下げてこられた。これで合計3社の仕事を引きうけ、生活にもリズムが生まれてきた。これを回していけば好きな経営の仕事をしながらもご飯が食べられるはずだ。顧問先の仕事をしながら、新しい顧問先を増やす独自の営業法を見つけねば、と思った。

お願い営業やご用聞き営業はやってはならない。それはコンサルティングという仕事をやる上での鉄則だ。であれば、どういう営業が望ましいか。異業種交流会を開いたり、夜の飲み会にお付き合いしたり、山岳部をつくって多くの経営者と一緒に北アルプスまで登山したり、今から思えばずいぶん無駄で膨大な試行錯誤をくりかえした。

業績に直結する一番効果的な方法は、セミナー開催だと気づいたのは何年もたってからだ。自分が企画した自分のセミナーを自分で集客する。しかも大切なことはセミナー収入を得ることが目的ではないということ。かといって無料や3,000円のセミナーでも意味がない。きっちりと費用を払っていただき、なおかつ「もっとこの人から学び、直接指導を受けたい」と思っていただくセミナー運営をすることが大事だと気づいた。

『売れるコンサルタントになるための営業術』(五藤万晶 著)という本があるが、もし20年前にこの本が出ていれば私の人生は違うものになっていた可能性が高い。だが残念ながらこの本が出たのは、つい一週間前の2016年3月22日なのである。

来月の「がんばれ!ナイト」のゲスト講師にこの本の著者・五藤万晶さんをお招きしている。どうして20年前にこの本を出してくれなかったのかと、半ば本気の苦情を言うつもりだ。

これからコンサルタントになる人にとっては自分営業術に関する手引き書になるものだと思う。もちろん現役コンサルタントのあなたにも。

売れるコンサルタントになるための営業術
http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=4755

五藤さんがゲストの「がんばれ!ナイト東京」 4/7(木)開催
http://www.e-comon.co.jp/session/?p=6646